HCD認定ニュース

公開時期が遅くなり申し訳ございませんが、2015年度の専門資格認定試験の審査結果をご報告いたします。

1. 審査結果

NPO法人人間中心設計推進機構(HCD-Net)が、2009年度から実施している「人間中心設計専門家」資格認定の2015年度(第7期)の試験が完了しました。既に合格者の発表は3月末にすんでいますが、今年度は51名の方々が人間中心設計専門家として、また2014年度から新設された人間中心設計スペシャリストとして54名の方が認定されました。全体の内訳は、HCD-Net会員が16名、一般が89名です。特にスペシャリストから専門家になられた方が何人か出てきたことも追記しておきます。

専門家、スペシャリストを合わせると受験者数は昨年度に対して2割超増えています。今年も進めた各方面のWebサイトでの専門家の活動紹介が功を奏したこと、恐らくは認定された方々認定されたことを肩書に記載していることなどにより、この制度に関する関心がますます高まってきていることが考えられます。ただ残念なことに、今年度も受験申込をされながら最終的に申請書を提出されなかった方が目立ちました。

2. 審査基準

HCD/UXDの専門家に求められるコンピタンスは時代の要請とともに少しずつ変化しています。専門資格認定センターでは、毎年必要とされるコンピタンスマップや申請用紙などの精査、見直しを行って来ました。ただ、2015年度は、審査基準の見直しは行わず2013年度版を使用することにしました。一方、申請用紙の見直しを行ない、申請者・審査者双方の利便性向上をめざしました。具体的にはプロジェクト記述書(B-2)を見直し採点対象プロジェクトの概要や背景を記載できるようにしたことです。申請者にとっては、コンピタンス記述書(B-3)の記載前に改めて何をやったかを振り返ることができること、またコンピタンス記述時にプロジェクト概要を再度記載して冗長になることを防ぐ効果に期待しました。審査者にとっては採点対象プロジェクトの全体像を最初に把握できるようになるため、より確度の高い審査ができる効果を期待しました。結果的に効果があったと考えております。

また、これまでに受験申し込みをしながらも申請ができなかった方々の要因は時間切れで記述ができなかったと推測し、今年度は受験者説明会において、週末1回程度の時間では記述しきれないことを強調しました。とはいえ、今年度も提出を断念された方が多かったので、引き続き対策を検討いたします。

3. 認定機関の位置づけ見直しと倫理指針の策定

従来は、機構直下の規格化/認定事業部 専門家資格認定委員会が認定機関でした。2015年度からは認定機関としての中立性をよりアピールでき、将来の海外機関との相互認証を見据えて機構内でもできるだけ独立した認定組織とすべく、事業部とは別の人間中心設計専門資格認定センターとして位置づけ直しました。見直しにあたっては人間工学会の認定専門家制度を参照しました。

これに合わせて、認定試験において、受験者を保護するとともに審査・判定の厳密性、正確性、再現性を確保することを目的とした倫理指針を策定して公開しました。対象者は認定センターメンバーや認定試験に関わる事務局員と審査員です。

4. 審査経緯

2015年度は以下の日程で審査を行いました。
募集要項公開 2015年11月25日
申請開始   2015年11月25日
申請締切   2015年12月25日
書類提出締切 2016年1月25日
合格発表   2016年3月31日

今年度も関西地区での受験者説明会を含め受験者説明会を2回、審査員説明会を1回行いました。例年と同様に審査員説明会では、審査のばらつきをより少なくするために審査基準を正確に理解していただくことと、初めて審査に当たる方には審査要領を十分理解していただくことに加えて倫理指針を意識することで、審査精度の維持向上を狙いにしました。

今年度は認定専門家の人数が多くなってきたことから、これまで通り審査経験年数多い方を必ず含めるとともに、1人の受験者に対して同業種、異業種からなる5人の審査員が厳正な審査を行いました。

最終的には、専門資格認定センター有識者で構成された専門資格判定会議において、一人一人の受験者の審査結果に関して各審査員の審査内容を個別に確認し、最終的な合否の判定を行いました。

5. 審査における課題

今年の審査においても、これまでと同様に、受験者説明会でも強く意識し説明しているにもかかわらず、記述の内容からは申請者が主体的にどのように関わっているかが読み取れない申請が多くありました。内容的には、HCDの活動がチームで実践されることが多い中で、自分が何をどう分担してどのようなコンピタンスを発揮したのかが読み取れない記述が目立ちました。また、実践の中でどんなコンピタンスを発揮したのかではなく、やった手順や手続きしか書かれていない事例も相変わらずありました。今後も受験者に記述のポイントが確実に伝わる方法をさらに検討していきます。

今年の傾向として、コンピタンスの理解が不十分と推測されるケースが増えたように感じました。認定制度への関心が高まり、多彩なバックグラウンドの方々が受験するようになったのに、コンピタンスマップやコンピタンス記述書(B-3)の説明の読み込み不足が一因のように思われます。私たちとしてもHCDに関わっているなら基本的な用語で説明不要という従来の自分たちの判断を見直す必要を感じています。伝わりやすいコンピタンス説明に向けた見直しはHCD専門家の方を巻き込み検討を進めていきたいと考えています。

昨年同様、プロジェクトマネジメントや啓蒙、教育に関わるコンピタンスは持たれているにもかかわらず、HCD実践に関する基本コンピタンスが十分でないケースが散見されました。実務実践を認定する試験にチャレンジしているのですから、マネジメントの立場とはいえ積極的な現場参加・現場理解の元、基本コンピタンスについて理解を深めていただくことを期待いたします。

本認定試験は、記述された内容のみで合否を判断する書類審査方式です。わかりやすい記述ガイドライン、記述例、コンピタンス説明書を用意することはもちろんですが、申請者の皆さんに、(説明会等に参加する、もしくはビデオを見ていただき、) コンピタンスの定義の正しい理解と書き方を確実に理解していただく必要性があると考えます。一方で、専門資格認定センターとしても、審査員候補である認定専門家の方々に向けたコンピタンス全般に対する理解を深めることができる施策を実施し、審査結果の精度をより高めることや、審査のばらつきをさらに低減させる必要性を感じました。実施に向けて企画検討していきます。

6. 来年度以降に向けて

人間中心設計専門家認定制度は、現在1級相当の資格として「認定HCD専門家」、2級相当の資格として「認定HCDスペシャリスト」で構成されています。さらに、3級相当の検定試験として以前から案内しながらも実現が遅れていました、やっと目途がたってきましたので、実施に向けて加速していきます。

既に400名を超える「認定HCD専門家」の上位の専門資格の考慮や領域別の専門家認定の必要性なども視野に”専門家“”スペシャリスト“といった名称を含めた全体体系の見直しも考慮していきます。

専門家の多くは人間中心設計、ユーザーエクスペリエンスデザイン、サービスデザインの業務を専門とされていることが多いと思いますが、スペシャリストの資格は、まだ実戦経験が少ない方々や人間中心設計、ユーザーエクスペリエンスデザイン、サービスデザインを専業としないデザイナーやエンジニア、商品企画の方々、HCD-Netにまだ関わりの少ない業種の方々にももっと多く取得していただきたい資格です。今後、積極的な広報活動を通じて、さらには既に資格を取得されている専門家・スペシャリストの皆さんからの働きかけによって、裾野を少しでも広げてゆきたいと考えています。

また、昨今人間中心設計の実践においてもビジネスや組織改革のためのコンピタンスがより求められるようになってきています。認定に必要とされるコンピタンスもその内容を継続して見直し、常にその時代に求められる能力に沿った認定を実施してゆくつもりです。

7. お願い

毎年のお願いではありますがあらためて。
本資格は、HCD-Netが人間中心設計実践において定めた一定の基準を充たしたことを認めるものであり、今回資格を認定された方は、各方面において今まで以上に人間中心設計、ユーザーエクスペリエンスデザイン、サービスデザインの実践に励まれるとともに、啓蒙普及にご尽力いただくようお願いいたします。また、実践を積む中でより幅広いコンピタンスを発揮できる専門家をぜひ目指してください。

また、今回基準に満たなかった方々も、人間中心設計専門家・スペシャリストまたはそれに準ずる資格に認定される方々ばかりと認識しておりますので、なお一層の実践を通したスキルの獲得、知識の習得により来年度以降の積極的な申請を心よりお待ちしております。

なお、この制度は、3年ごとに資格を更新する仕組みになっています。すでに、資格を取得された多くの専門家が、人間中心設計分野での実践、知識の習得などを通じて必要なポイントを獲得し、資格を更新されています。

最後になりましたが、審査にあたり認定人間中心設計専門家の方々に、お忙しい中にもかかわらず多くのご協力をいただきました。改めてこの場を借りて御礼申しあげます。

2016年5月
NPO法人人間中心設計推進機構
人間中心設計専門資格認定センター
センター長 伊藤潤