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“文脈的な理解を科学的に行う”とはどういうことなのかについて、共鳴連鎖という捉え方と継続的長期的エスノグラフィの実施事例を参考に理解を深めるという当初の狙いは達成できた。
とかくインタビューアとインフォーマントという対峙関係に陥りやすいことに対しては、東工大 上林氏の「お互いに当事者である」、「共創の前に共鳴が必要である」、「単に“見る”ことから寄り添うように“看る”ことが大事である」、等々のお話が印象的であった。また富士ゼロックス 田丸氏の実践からは、“エスノグラフィを継続的に行う”という意味がよく理解できた。実はこのためには、プロジェクトを離れた現場研究の専任者(エスノグラファ)とプロジェクトメンバーであるHCD担当者やデザイナーとの連携が必要であるが、この辺りの実際の方法やノウハウ、実施する上での環境整備などについては、時間的な関係で踏み込めなかった。実際にどのようにプロジェクトにフィードバックするか、顧客との共創関係を築くための具体的な方法はどのようなものか、などの質問が出ていたことからも、更に実践向きなセミナーなどが必要であろうと考える。
この辺りも考え、来年度も再び企画を行うことを検討したい。
HCDのサイクル(ISO 9241-210)で述べている「ユーザーの利用状況の理解」は、文脈的な理解の中からユーザー行動の背後にある真の意識や想い(インサイト)を読取ることを求めています。エスノグラフィが普及しつつある昨今、この趣旨は理解され実践されているようにも見受けられます。しかし実態は、表面的な特徴を捉えそれをユーザーの真の姿と早合点してしまう“強引な理解”のケースが散見されます。
例えば:
・訪問するユーザーの定義が不十分なまま訪問してしまう。
・1,2回訪問し短時間のインタビューを行っただけで、ユーザーのコンテキストを理解したつもりになってしまう。
・現製品やサービスの改善事項は見いだせるが、イノベーションにはなかなか結びつかない。
これらの問題を回避するためには、数週間から数か月という、比較的長期にわたる観察でこそ得られる“文脈的な理解”に、その糸口を求めることができます。観察スキルを高めるのは云うまでもありませんが、短期間の観察で生じる社会心理的な観察者効果の一種である「認知バイアス」などが、インサイトの読み取りにも悪影響を与えます。目的を「改善」に置くならば、現状の問題が一通り分かれば要は足ります。しかし「イノベーション」につなげるためには、“一通りの理解”では不十分であり、ブレークスルーには容易に結び付きません。
本サロンでは、“文脈的な理解”とはどういうことなのか、その核心を科学的視点で再確認します。東京工科大 大学院の上林氏には、マウスやスプレッドシートの発見、およびPARCの活動など、歴史的な事例をご紹介いただきながら、“文脈理解を踏まえたイノベーションへのヒント”についてお話しいただきます。また、富士ゼロックスの田丸氏には、サービス部門向けの情報配信サービス開発事例を通じて、エスノグラフィーによるサービスエンジニアの仕事に関する文脈理解、共創的なサービス開発プロセスについてお話しいただきます。
なお、本回のテーマでは、「サイエンス」という言葉を使用しています。主な期待は、「ユーザーの利用状況の理解」について科学的な解釈を共有することです。しかしもう一つのささやかな期待としては、企業活動としてエスノグラフィに取組んでおられる、UXデザイナーやHCD専門家の方々による社内啓蒙が進むことがあります。その一助となれば幸いです。
■日時:9月18日(金)18:20~21:00 (受付開始:18:00~)
■会場:東京工科大 蒲田キヤノンパス 3号館2階 30201教室
http://www.teu.ac.jp/campus/access/006648.html
■プログラム:
18:20~18:40
①エスノグラフィの「不適切な導入」について
(松原 幸行氏)
18:40~19:20
②文脈依存科学(コンテキストセンシティブサイエンス)に基づくイノベーション
(上林憲行氏)
休憩:19:20--19:30
19:30~20:10
③富士ゼロックスの取り組み
(田丸 恵理子氏)
20:10~20:50
④ディスカッション「イノベーションに向けて」
(上林氏・田丸氏・松原氏)
■定員:50名(先着順)
■参加費:HCD-Net会員:2000円・学生会員:1000円
一般:6000円
■参加申込方法:申込受付は終了しました。