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ショートコラム Vol.122
私は、およそ四半世紀前に工学部を卒業し、情報技術関連の研究者として民間企業で長いこと働いていました。そのため、人生の大半は、どちらかというと理科系の分野に目を向けてきたと考えています。ところが、数年前に縁あって転職し、中央大学文学部、社会情報学専攻の教員として文科系の学生を指導するようになりました。
ところで、いわゆる「私立文系」の学生諸君を指導していて気になることがあります。それは、数学に弱い学生がたいへん多いということです。「情報処理に興味はあるけれど、受験に数学がある理工学部の情報工学科ではなく、受験に数学が不要だから文学部の社会情報学専攻に来ました」という学生すらいます。これは、もちろん大学の受験制度にも不備があるので、それについては我々としてもおおいに反省すべき点ではあるでしょう。しかし、高等学校において、数学が苦手だから文系にいくという概念(甘え)がまかり通っていることを是正せねばいけません。
いささか青臭い理想論の開陳を許してもらえば、本来、英語・数学・国語の3教科は基礎学問であって、文系、理系の区別なく、一定の知識と能力を習得していることが望ましいと主張したいところです。そのうえで、自然科学に興味があるならば理系に、人文科学や社会科学に興味があるならば文系に進むという進路選択であってしかるべきではないでしょうか。基礎学問の1つができないから文系に進むという考え方は、かなり危うい選択となりがちです。(数学が苦手な学生にとって残念かもしれませんが、)社会情報学では数学、とくに統計の知識は必須であり、本学の社会情報学専攻に入学した学生たちは、1年次から鍛え直されることになっています。
さて、翻ってHCDはどうでしょうか。HCD-Netに参加している皆さんのバックグラウンドもかなり幅広い様子が伺えます。システム系に造詣の深いエンジニア諸氏もいれば、美術的センスの発揮を得意とするデザイナー諸氏もいます。また、対象分野もハードウェア、ソフトウェア、そしてサービスのデザインと、あらゆる分野に拡がっています。数学は基礎学問であるとの認識をあらためてほしいのと同様に、HCDは設計に関する基礎的素養であるという認識を普及させるにはどうしたらよいかということを、昨今、つらつらと考えるようになりました。皆さんは、いかがお考えになりますか?