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今年も専門家資格認定試験が行われていて、来月になればまた新たに「専門家」が誕生する。推定になるが、今年の3月の発表後には恐らく500名を超える専門家が認定されることになると思われるが、500名を超える専門家集団は、決して小集団では無いと思う。これだけの人数が何故「専門家」を目指したかったのだろう?
更に、「スペシャリスト」というカテゴリーも試験が始まり、また来年には「検定」という第3のカテゴリー試験も予定されている。これだけの専門家集団の動きがあって、世の中にどのようなインパクトを与える事ができるのか、興味深い。
・専門性について
人間中心設計、HCD、UXD、ユーザビリティ、等様々な名称で語られてる分野ではあるが、その定義は依然として完全に明確化されていない。しかし、ISOの規格に於いても、13407が基準だったが近年の議論により今では9241-210として表現されるように変化して来ている。本質論は未だに議論の的であり進行中だと言える。
すなわち、人間中心設計とは何かをズバリ正確に表現することは非常に難しい。しかし、少なくともその専門家と言われる人たちがどういう知識を持ち、世の中に対してどういう役割を果たすことができるのかについては、100%完璧な説明は不可能だが、部分的には明確に説明できるハズである。何ができる専門家なのかを明確に説明すれば、さらに注目度は増すと思うが、今のところまだ明確な回答が得られていない。
・コンピタンス表と人間工学系技術
認定試験を受験された方々にはすぐに思い浮かべられると思うが、専門性に関するコンピタンス表を作成した。コンピタンスとして、基本となる13の能力、プロジェクトマネジメント系の3つの能力、導入推進系の4つの能力に加えて参考要素としてテクニカルコミュニケーション能力を挙げ、専門家としての能力判定の根拠として適用している。これらの能力要素は、これらの判定基準に基づき受験者の実践内容の記述を評価して、その人がどれだけ専門家としてふさわしい一定基準以上の経験を持つ人であるかどうかを判定して認定するものである。
専門家としてどのような能力を持つのかを説明するためにはコンピタンスの要素を挙げるとわかりやすい。具体的には、調査、分析、モデル化、要求定義解析、デザイン仕様設計、企画、情報構造、プロトタイピング、評価能力などと並べれば一応納得する気になるが、実際の仕事の現場で求められる専門家は、これらの能力の発揮を求められているからだろうか?実際に求められている内容は、このような手法や技法の知識やテクニックだけでは無いように思う。
・専門家として活躍するために
上記に並べたコンピタンス要素は、あくまでも基礎知識・能力である事を忘れてはならない。更に、プロジェクトマネジメントに必要な能力として企画力、チーム運営能力、調整・推進能力を挙げた場合、具体的には何が必要なのか?
原点に立ち戻って考えると、元々関連学問として、認知心理学、人間工学、心理学、社会学、政治学、人類学、民族誌学(エスノグラフィー)などが挙げられていたはずである。今や当たり前過ぎてつい意識が向かないが、エスノグラフィーで綿密な人類の観察手法や技法があり、これを応用して観察技術が発達して来たと思われる。良く現場を観察すること、そこで関係者から多くの情報を引き出すこと、そのための基礎能力が整理した形で提示されているが、重要なのは、関連する他の学問やコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、そして文書作成能力である。これらの関連能力が専門家としての「厚み」となる。
・魅力ある専門家となるために
試験に合格して認定されれば一人前の専門家である、とは言えないだろう。上記に示した通り、基本的知識を実践できるとして認定されただけなので、専門家としての「厚み」を引き出す努力をしなくては深みのある魅力は感じられない。認定された専門家同士が互いに切磋琢磨して深みや厚みを研究し、実務に即効性を得られるようにすべきだし、更に、経営者としての知識など経営や運営の頂点からの俯瞰ができるようになるための努力が必要である。そのためには、HCD/UXDの要素を良く考えながら関連する学問体系の内容を更に独自のブレンドでミックスした「深み・厚み」の本質を極めることが重要である。多くの認定専門家が誕生することは喜ばしいが、これは専門家としての門出でありゴールではない事を認識して欲しい。