認定専門家の声


「HCDの専門家になることは、HCDプロセス全体に関われる人になること」
伊藤 英明さん(株式会社 U'eyes Design)

株式会社 U'eyes Designでユーザビリティエンジニアとして活躍されている伊藤 英明さん。HCDの専門家として必要なことを伺いました。

「スペシャリストよりも、ゼネラリストのほうが、より早く資格を取りやすいんじゃないかな」


  • U'eyes Designに入社されてから、今にいたるまで、どんなお仕事をされていらっしゃるのですか。

当社は、評価から企画、仕様検討、プロトタイプ作成、その評価結果をフィードバックして…というような形で、HCDプロセス全般に関わる会社です。

入社したときはデザイナーでしたが、よくユーザーテストの手伝いなどもしていました。最初は記録をベタうちする記録係から入って、だんだんユーザーテストのモデレーター(進行役)や専門家評価も任されるようになるなど、徐々にユーザビリティ評価に関わるようになってきたんですね。

そういう仕事も少なからずやっていくうちに興味の対象が、モノそのものよりも、モノを使う人のほうに向くようになってきました。

時代の流れとしても、プロダクトデザインだけという仕事は少なくなっていて、会社の組織変更のタイミングでユーザビリティエンジニアになりました。会社としては、アウトプットとしてデザインまでをするということもあるので、僕はそこに全般的に関われる人にいつの間にかなっていたんですよね。両方のスキルが身についたというか。

今、入社8年目で、実務以外にマネジメントをする立場に年数的になってきているので。最近はプロジェクトリーダーを務めることが多いです。

プロジェクトリーダーというのは、プロジェクトそのものを計画して、推進していく役割です。僕自身は、比較的多くのプロジェクトをマネジメントすることが多い。経歴上、プロダクトの話もできるし、GUIの話もできるし、対応できる範囲が多いからです。

人間中心設計専門家のコンピタンスのなかにマネジメントが入っていますよね。ここを具体的に書けない人が、けっこう多い気がしています。

書けないのではないかと思ったのは、どうしてでしょうか?


自分より年下の社員で、まだプロジェクトリーダーの経験がなかったので、マネジメントに関わるコンピタンスが書けなかったことがあります。やったことがないものは書けないし、適当にそれらしいものを書いても具体的じゃないので、結果的に受からなかった。

人間中心設計専門家の基準は、HCDプロセスの一部ではなく全体を見て、それを実践できる人を専門家としてみているように感じました。だからマネジメントのスキルも大事です。

人間中心設計専門家になりやすい人は、スペシャリストよりも、ゼネラリストとしてプロジェクト全体を包括的に監督できる人のほうが、より早く資格を取りやすいのではないかと思っています。

人間中心設計専門家の専門性は、例えばスキルをレーダーチャート状に表わしたとして、ある一か所が尖っていることじゃなくて、HCDプロセス全体に対して、ある程度以上に関われるという、幅の広さが大事だと思います。一か所だけが尖っていても、マネジメントのところが書けないと、必須項目が埋められなくて受からなかったりするわけですよ。

伊藤さんご自身は、どういうときにそれを感じたんでしょうか。

若手のころは、部分単位での関わりが多かったんですよね。評価の手伝いをする、アイデア出しをするときブレストに参加する、デザインの絵を描く、などという形でした。プロジェクトリーダーになると、対して、まず計画をすることになります。

例えば、ユーザビリティ評価を実施する際は、こういうことを明らかにするためにします、という目的があります。元をたどれば「こういう商品にしたい、こういう商品をつくるにはどこを重視すべきか知りたい」という大きな目的があって、「じゃあここがわかれば、その後の方針が決められますよね」という道筋を立てて、評価のためのプロトタイプをつくるといった感じです。

HCDを実践する、ということは、そのプロセス全体の目的であるとか、プロセスごとに出た結果が次にどう使われるかということを意識しながら、一個一個のプロセスを回す。そういう考えでやらないとHCDはできないんじゃないかなと思います。

スペシャリストよりゼネラリストと思うのも、そういうところです。HCDの専門家になるということは、HCDプロセス全体に関われる人になるということだと思います。

「割合は違えど、全体的に関わっている感じ」

伊藤さんが携わったお仕事で「日産リーフ」の簡単早わかりガイドが、日本マニュアルコンテストの「部門優良賞」「最終審査委員特別賞」を受賞されました。

クライアントの厚意もあり、当社の事例として、ヒューマンインターフェース学会や産業技術大学院大学のデザインミニ塾で発表させていただきました。

「簡単早わかりガイド」は、マニュアル本編とは別に、クルマの取り出しやすいところにおいてもらって、わからないことがあったときに調べたり、購入直後にこのクルマはどういうことができるのかを知るなど、基本的な使い方を覚えてもらうための30ページくらいのものです。

これをデザインするときに、電気自動車を使う人がどういうところで説明が必要になるかを想定しないといけなかったんですが、電気自動車を使っている人が極めて少ないので、今のユーザーを参考にすることが難しかったんです。

そこで、電気自動車ユーザーのペルソナをつくって、そのペルソナが電気自動車を使う、というシナリオを作りました。リーフが納車されたユーザーが準備をして外出して帰ってくるといった、一連のシナリオをつくることで、こういう機能をこんなときに使う、だからこういう説明が必要になる、というようなことを考えました。

僕自身はこの仕事で評価チームを担当しました。プロトタイプをつくり、ユーザーテストで評価をする、これはもちろん僕が関わってます。その結果をまとめてどう改善するかを考え、その結果をもとにデザインを改善する。ここにも関わっています。割合は違えど、全体的に関わっていました。

「『コンピタンス記述書』を書いたことで、HCDをより説明できるようになった」

人間中心設計専門家の資格は、どう仕事に役立っていますか。


資格をとったことで、HCDを人に紹介しやすくなりました。

僕は名刺に「HCD-Net認定 人間中心設計専門家」と書いています。名刺交換したときに「この、人間中心設計専門家ってなんですか?」という話になりやすいわけです。その説明をすることが、U'eyes Designはこういう仕事をする会社です、ということとイコールなんですよね。

これまでに会社の説明をしていたときと言っていることはそれほど変わらないのですが、「その専門家です」という話になったときに、急に人が注目してくれるようになったところがあります。

もうひとつ役立ったことがあります。資格をとるにあたって、『コンピタンス記述書』を書きますが、そのことが自分のいままでやってきたHCDの活動を棚卸ししたことになっていたように感じます。自分はHCDの活動としてこういうことをやってきたんだ、このプロジェクトのなかではここをこういうふうにして、こんなこともあって、こういうふうにやってきたなあ、という整理ができました。

あの『コンピタンス記述書』を書いたことで、自分がHCDのことをより説明できるようになりました。

資格をとる過程の『コンピタンス記述書』に価値がある?

あれは棚卸だったなと。『コンピタンス記述書』はそれまでのHCD活動の棚卸をしないと書けないんですよ。

『コンピタンス記述書』を書くときに最初にやったのが、自分が入社以来関わってきたプロジェクトの内容を、とりあえずタイトルだけ一覧して、評価で関わった業務か、デザインの制作をした業務かなど、どれに該当するか整理することでした。どのプロジェクトを『コンピタンス記述書』に書くのか、ふるいにかけるところからはじめたんですよね。

『コンピタンス記述書』には5つのプロジェクトしか書けないので、その5つをどう選ぶかで必須項目がどう埋まるかが決まります。どのプロジェクトを書くかについて、ちょっとした作戦が必要なんです。埋めたと思っていた部分にもし点数がつかなかったら、必須項目が足りなくなることになるので、必須項目が1つしか埋まらないようなプロジェクトの選び方はちょっと危ない。複数ずつ埋めるのが受かるコツだと思います。

話を戻すと、人間中心設計専門家の資格をとったことで自分のHCD活動の棚卸ができて、よりHCDのことを説明しやすくなった。ああ、これだけのことをしてきたんだって、自信に繋がったのかもしれませんね。

本日はお忙しい中、ありがとうございました。

(取材・文・撮影:HCD-Net 専門資格認定委員会 羽山 祥樹)

関連リンク

株式会社 U'eyes Design


人間中心設計専門家 応募要領

HCD-Netで人間中心設計の専門家になる

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した公益団体です。HCD活動の領域や役割を明確化し、それらに携わる方々のコンピタンスを認定することにより、HCD活動の活性化を目指します。

HCD-Netの認定制度は、専門家とスペシャリストの2種があり、経験やコンピタンスに応じた認定が行われます。この制度は認定のみならず、これからHCDを学び、実践しようとする方々へ目標を示します。