認定専門家の声


「人間中心設計専門家がビジネスに責任を持とう」
鱗原 晴彦さん (株式会社 U'eyes Design)

株式会社 U'eyes Design 代表取締役の鱗原 晴彦さんに、人間中心設計専門家に大切なことは何か伺いました。

「人間中心設計が、開発ノウハウとして広く認められるようになってきた」

御社は人間中心設計を専門にされていらっしゃいます。


弊社が創業した22年前は、ユーザインタフェースデザインは、あまり知られておらず、やはり工業デザインの事務所として出発しています。

当時、日本の半導体業界が世界を席巻していました。半導体は微細加工を行うため、クリーン度の向上が必須ですが、クリーン度がクラス0(ゼロ)に達した時に、機械の本体がすべて壁の中に入ってしまって、液晶ディスプレイしか残らなかった。そんな時代背景もあり、液晶ディスプレイ付きの商品が増えて、いろいろなGUI開発が増えました。

GUI開発は、ソフトウエア開発の一部のため仕様検討も含めて設計要素が多く、従来のデザイン事務所では敬遠していました。だから、弊社へ依頼が来るケースが多くあり、ユーザーインターフェースデザインの仕事を広げました。

しかし、ユーザーインターフェースデザインが本当に定着するようになったのは、ここ10年くらいのことです。それまでは工業デザイン、商品開発を支援する会社としてアピールしていました。「商品開発デザイン設計コンサルティング」がずっと弊社の看板でした。そうやって、試行錯誤して、ユーザビリティに着目したビジネスノウハウを獲得していきました。

弊社が売れるシステム開発に携わることができるのは、工業デザインの商品開発支援という土台があって、そこにユーザーインターフェースのノウハウが乗っかっているからです。ビジネスという基礎の概念がないのに、ユーザインタフェースの知識だけ持っていても売れる商品には結びつきません。

鱗原さんは、人間中心設計の普及にも努めていらっしゃいました。

この20年の活動の成果として、人間を中心に設計するという考え方が、開発ノウハウのひとつとして、広く認められるようになってきています。

20年前は、ユーザビリティといってわかる人はほとんどいませんでした。それが今は、エンタープライズ系の指導者層からでさえ「ユーザビリティ」や「利用実態」、「ユーザー情報」という言葉が出るようになりました。開発にはユーザー情報が必要なんだ、というようになったんですよ。既に組込み系システム開発の領域では数年前から、要件定義にはユーザー要求を盛り込まなければいけない、と認識されるようになっています。この2年ぐらいで、専門家の知見を望む開発が増えてきました。

HCD-Netの関係者が協力して策定した内閣府の電子政府ユーザビリティガイドラインが公開されて以降、公的事業の公告にも「開発に専門家が必要である」ということが明示されるようになりました。

20年、石にかじりついてやってくると、活動の影響が、少しずつだけど、ちゃんとまわりに伝わっていくんです。いい流れになってきています。

「大事なことは、ビジネスを成功させて、社会を回していくこと」

世の中の流れを、人間中心設計に近づけてきたということですね。


システムの不具合における、人間に起因する要素も注目されるようになってきました。公共機関のシステムが、人的な要因によりダウンする。稼働しない。そういう不具合の原因として、操作性の設計ミスや要件定義におけるユーザ情報不足、人間の認知的側面への配慮不足などが明らかになっている。解決すべきテーマとしてクローズアップされてきています。

私たち人間中心設計専門家は、そういった問題を解決して、そして「私たちが解決しました」と声を出して言わなければならないと思っています。

声に出して言う、ということは、人間中心設計に関わる人たちがもっとビジネスに責任を持つということです。

他の専門分野の方は、ビジネスに大きな責任を持っています。例えば、ロケットの打ち上げに支障が出れば、メーカーのロケット開発部門は厳しい責を負います。責任者の進退が問われたことを耳にした事があります。

「自分がやります、自分が責任を負います」と発言しなければ、責任も負わなくて済みます。しかし、専門家として名刺に刷り込む以上、ビジネスの責任を持つべきです。失敗したら、相応の叱責を受けることになるでしょう。そのかわり、成功したら高い評価を獲得することができる。そういう社会的な枠組みを目指す事が大切です。

大事なことは、ビジネスを成功させて、社会を回していくことです。そして、その成功に自分たちが貢献していることを多くの人に伝えないと、社会は変わっていきません。人間中心設計専門家の方々は、ぜひビジネスの責任を担ってください。

弊社に限らず、専門事業者において、この点は明解です。お客様から依頼された仕事を失敗すれば、次の仕事はなくなります。担当者は皆ビジネスに責任を持っている。だから個々人の成長も早くなります。

「利用品質の高い商品を生むには、インプット情報を操れる、質の高い人材が必要」

人間中心設計専門家がビジネスに責任を持つためには、例えば、どんなスキルが必要になるのでしょうか。

弊社は専門事業者として人間中心設計に長く携わってきました。現在、弊社には50人近く人間中心設計を専門にしているメンバーがいます。しかも内容の濃い仕事をしています。

まったく異なる分野の方に人間中心設計を伝えるためには、説明責任が求められます。お客様の中にはこれからユーザーインターフェースデザインに取り組む方もいます。その方にいきなりヒューリスティック原則の話を並べても伝わりません。相手にあわせて理解できる説明の仕方を考えなければいけません。

弊社の場合は、HCD領域で最先端の企業からお仕事をいただくこともあります。そうすると、窓口の方は、それこそ人間中心設計に詳しい方ですから、その方々とも議論ができなきゃいけない。あるいは、これから人間中心設計を導入したいと思っているお客様には、そういった方々向けに平易な言葉で話してあげないと、理解をしていただけません。毎日、そういうことを意識し活動するのが弊社の仕事であり、説明責任を果たせるスキルが求められます。


高度な人材が求められますね。

アウトプットをするためには、インプットが必要です。質の良いインプット情報があれば、質の良いアウトプット情報になる。これは誰しもが理解できることと思います。

しかし、どんなに良いインプット情報が得られても、その情報を操ることができなければ意味がありません。人間中心設計で利用品質の高い商品やサービスを生みたいんだったら、良質なインプット情報が必要だし、その情報を操れる人材が必要です。

小惑星探査機「はやぶさ」が偉業を成し遂げて帰ってきた背景には、宇宙が好きで好きでしょうがないという、熱意のかたまりを持った専門家がいっぱい集まっていたわけです。とにかく人のことが好き、暮らしが好き、そういう興味が一番大事です。そういうモチベーションを持った人が、認知心理学や、産業心理学、ユーザーインターフェース、デザインを身につけると、質の高いアウトプットが出せるのです。

具体的には、どのような人材育成体系を整えられていらっしゃるのでしょうか。

弊社ではいわゆる専門領域のスキルに加え、ビジネス領域、マネジメント領域に関する段階的なスキル標準を定めています。何を身につけなければいけないか、どの程度、身につけなければいけないかの目標を設定し、その内容も常に更新する仕組を目指しています。

教育の世界では学力向上や人間形成を意識した、全人的なプログラムが研究されていると思います。教育体系をしっかりつくらないと成長は遅くなってしまう。人間中心設計専門家を育てる、という点でも同じだと考え、常にトライをしています。

本日はお忙しい中、ありがとうございました。

(取材・文・撮影:HCD-Net 専門資格認定委員会 羽山 祥樹)

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