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「人間中心設計専門家のラベルは、HCD関係者以外と仕事をするうえでも武器になります」
山口 優さん (フリーランス)
フリーランスの人間中心設計専門家として活躍する山口 優さん。活用している人間中心設計専門家の肩書きの評判について伺いました。
自分の"売り"を表すキャッチコピーとして、人間中心設計専門家と名乗る
最初に自己紹介をいただけますでしょうか。
リサーチ&コンサルティング会社のイードに17年在籍し、昨年にフリーランスとして独立しました。
マーケティングリサーチやデザイン評価を土台にして、ユーザビリティや人間中心設計、ペルソナに携わってきました。今はエンジニアやデザイナーをサポートすることを目標に、ユーザー視点に立った調査や分析をしたり、人間中心設計に関するコンサルティングをしています。例えば、新しく人間中心設計を行う組織を作ろうという方のサポートやコンサルティングなどです。
他に今年の春ですと、あるWeb関連企業の新人研修で人間中心設計とペルソナの講師をさせていただいたり、他に大学院で、社会人の方々を相手にペルソナの講義とワークショップもいたしました。
「人間中心設計専門家」の資格は、どのように役に立っていらっしゃいますか。
名刺に「人間中心設計専門家」と、自分の肩書きとして載せさせていただいています。
というのも、起業家やフリーランスの多くは、自分を売り込むためにも名刺の肩書きに、いわゆるキャッチコピーを載せています。自分のウリと名前を憶えてもらうために必要なんですよ。
はじめは「ペルソナ」や「ユーザー体験」といった言葉をキャッチコピーとして使っていました。でも他の業界の方には、やはり専門用語は伝わりづらいですよね。それもあって、きっかけづくりとしては、あまり役に立っていませんでした。
4〜5回、名刺を新しく印刷するたびにキャッチコピーを変えていました。「生活者視点から経験価値を生み出すコンサルタント」にしたこともあります。
キャッチコピーはそのような試行錯誤だったのですが、そのとき、名前の下に職能として書いていた【人間中心設計専門家】をキャッチコピーに昇格して、載せてみました。そうしたら「人間中心設計専門家って何ですか」と、意外と反応が良かったんですね。
だったら「それを山口のウリにしてしまおう」と考えて、名刺の肩書きにしました。他にも人間中心設計専門家がいるのでちょっと自分の肩書にするには気が引けましたが、中小企業診断士の方は「中小企業診断士の誰々です」と各自名乗られていますし、それと同等でいいのではと考えたわけです。
中小企業の経営コンサルタントが中小企業診断士ならば、企画・設計に対するコンサルタントが「人間中心設計専門家」であると思いませんか。
一生懸命考えたキャッチコピーを捨てて、名刺の肩書きを入れ替えるとは、思い切ってますね。
起業家の勉強会のコミュニティで、1分間自己アピールをしたことが何度かありました。その時、「私は山口優と申します。『人間』『中心』『設計』専門家をしています。人間中心設計専門家とは...」と説明します。そうすると、「人間中心設計専門家って響きがいいよね」とみなさん好印象なんです。それなら一層のこと、肩書きにしようかなって。みなさんに訊いてみたら「そっちのほうがいいんじゃない」という意見でした。
今のお話は新鮮です。人間中心設計をされている方ではなく、他の業界の方から見ても「いいよね」という話になった。
ええ、そうなんです。キャッチコピーは、平易な、わかりやすい言葉がいいんです。あまり奇をてらいすぎてもダメで、「えっ」と思わせるんだけど、何となくわかるようなものがいいそうです。「人間」も「中心」も「設計」も、それぞれ平易な言葉じゃないですか。それらが連なって「何だろう」と興味を湧かせるのがいいんです。
言葉から連想されるイメージもいいですね。「人間を中心に設計する」という言葉が、何となく良さげな雰囲気を醸し出している点も評価していただきました。
「人間中心設計においても、企画フェーズはマーケティングと密接に関わる」
山口さんは、もともとマーケティングリサーチをされていたのですね。
ええ、最初はマーケット(市場)のリサーチャーをしていました。そのあと、ユーザーリサーチに携わりました。それから99年ごろから分野が異なるユーザビリティ評価に携わり、次第に人間中心設計として開発プロセス全体にユーザー視点で携わるようになりました。そうすると、以前携わっていた企画フェーズのマーケティングリサーチが、人間中心設計プロセスの利用状況の把握と重なってきます。結果、開発の上流から下流まで、リサーチを軸にしてぐるりと一回り経験して戻ってきている感じです。
ご存知のように、人間中心設計において企画フェーズの調査はマーケティングと密接に関わります。私の特徴は、マーケティングの手法もいろいろ使えるところです。
そういった背景があるので、人間中心設計専門家という肩書きによって、「トータルでユーザー視点によるコンサルティングができます」という説明がしやすくなったのが嬉しいですね。
私の強みは、企画から評価・検証まで、ユーザー視点でトータルに携われることです。人間中心設計専門家は、開発プロセス全体を包含しているので、自分に合った資格だと思います。
山口さんは、マーケティングやビジネスといった広い範囲を見ていらっしゃるなかで、人間中心設計専門家のコンピタンスを発揮されているように感じます。
人間中心設計の専門家ですので、エンジニアの方に近いポジションでありつつ、マーケティング方面もわかります。設計チームと二人三脚で開発をサポートできます。
また、今年から経営戦略やマーケティング論を鍛えるために、MBAに通いだしました。ペルソナや新しい潮流のデザインエンジニアリングは、マーケティングのフレームワークの中ではどう位置付けられるのだろうとか、人間中心設計を知らない事業部の人にマーケティングを使ってどう説明したらいいのだろうかと考えたりしています。
マーケティングリサーチの方々にも、人間中心設計専門家が広がったらいいと思います。
マーケティング視点と人間中心設計視点の違うところを理解しコツを覚えれば、十分、人間中心設計専門家の資格があると思います。私がまさにそうです。マーケティングリサーチの人が入ってくる素地はあると思いますよ。
マーティングの分野で進んでいる企業は、ユーザーをどう客観的に理解するか、リアルな生活実態を追及しています。ビジネスエスノグラフィもその一つで、そうした顧客志向を取り入れているところもあります。私たちの領域では参与観察がありますが、非常に近い領域だと思います。
「もっと人間中心設計の裾野を広げていきたい」
山口さんの今後の活動を教えてください。
もっと人間中心設計を業務として取り組む層の裾野を広げていきたいと思っています。
今、人間中心設計に積極的に取り組んでいる方や学んでいる方々は、そもそも意識の高い人たちです。しかし、人間中心設計にちょっと興味がある、くらいの人たちにも加わってもらえたら、業界として更に広がっていくと思います。認定制度があることでアピールしやすくなりましたが、まだまだはハードルが高いですよね。
そこで、ちょっと興味を持っている人々の理解を深める活動。そこを自分のビジネス領域にしていくことで、裾野を広げるための啓蒙活動に、微力ながらつながるのではと考えています。
マーケティングなど関連業務の人で、意識が高い人たちに入ってもらうことで、人間中心設計の良さ、弱点がより明確になれば、ビジネスとしても使われやすくなるのではと。
そこにビジネスチャンスを感じていらっしゃるということですか。
そうですね。富士山に例えると、6〜8合目くらいの中間層ですね。
先進取り組み層の次の層をビジネスとして開拓していく感じです。例えば、社内で人間中心設計の教育をはじめたばかりの企業に仕組みづくりや研修でご協力させていただいたり、開発の課題に対してリサーチや評価を請け負ったり、人間中心設計のコンサルタントとして関わっていく、そういう立ち位置を考えています。人間中心設計に関して理解が深まれば、自分にも業界にとってもメリットがあると考えています。
裾野の下の方に関しては、まだ開拓が難しいので、学校教育に期待しています。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。
(取材・文・撮影:HCD-Net 専門資格認定委員会 羽山 祥樹)
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