HCD認定ニュース

1. 審査結果

NPO法人人間中心設計推進機構(HCD-Net)が、2009年度から実施している「人間中心設計専門家」資格認定の2013年度(第5期)の審査が完了しました。既に合格者の発表は3月末にすんでいますが、今年度は64名の方々が人間中心設計専門家として、また13年度から新設された人間中心設計スペシャリストとして53名の方が認定されました。内訳は、HCD-Net会員が64名、一般が53名です。

専門家、スペシャリストを合わせると受験者数は昨年度に対して40%も増えています。各方面のWebサイトでの専門家の活動紹介などを通じ、この制度に関する関心がますます高まってきていることが考えられます。

 

2. 審査基準の見直し

HCDの専門家に求められるコンピタンスは時代の要請とともに少しずつ変化しています。認定委員会では、毎年必要とされるコンピタンスマップの精査、見直しを行って来ましたが、13年度は大幅な改訂を行いました。これは、最近ユーザーエクスペリエンスデザイン(UXD)関連の業務の拡大など、HCDの業務に関わる実務家の業務の質が大きく変化してきているからです。改訂に当たっては、既に認定されている専門家の方々の協力を得ながら1年かけて改訂作業を行ってきました。さらに、13年度から新設される認定スペシャリストのコンピタンスの位置づけに関しても明確にしました。

これまで、調査分析能力や設計デザイン能力で構成されていたユーザビリティエンジニアリング能力に、ユーザー体験の構想・提案能力と言ったUXDに関連する項目を加え、全体をHCD基本コンピタンス(A群)としました。つぎに、プロジェクトマネジメントに関連する項目だけをまとめプロジェクトマネジメントコンピタンス(B群)としました。さらに、従来は組織へのHCDプロセスの導入や研究開発能力に関わるコンピタンスに人材育成能力を加え、導入推進コンピタンス(C群)としてまとめました。認定専門家はA群から7項目以上、B・C群から3項目以上(ただしB群、C群からそれぞれ1項目以上含む)のコンピタンスを有することを認定基準にし、認定スペシャリストはA群から6項目以上を有することを認定基準に設定しました。

 

3. 審査経緯

13年度は以下の日程で審査を行いました。

募集要項公開 2013年12月2日

申請開始   2013年12月20日

申請締切   2014年1月10日

書類提出締切 2014年1月31日

合格発表   2014年3月31日

今年度も、受験者説明会を1回、審査員説明会を2回行いました。いずれの会も多くの参加者がありました。特に今年は、審査基準を大幅に改定したために審査員講習会では、審査のばらつきをより少なくするために、新しい審査基準を正確に理解していただくことと、初めて審査に当たる方には審査要領を十分理解していただくことで、審査精度の維持向上を狙いにしました。

 

4. 審査における課題

今年度も1人の受験者に対して、4人以上の審査員(既に認定されている専門家の方々)が厳正な審査を行いました。最終的には、専門資格判定委員会において、一人一人の受験者の審査結果に関して各審査員の審査内容を個別に確認し、最終的な合否の判定を行いました。

今年の審査においても、これまでと同様に記述の内容からは申請者が主体的にどのように関わっているかが読み取れない申請が多くありました。これは、HCDの活動はチームで実践することが多いので、その中で自分が何をどう分担して何をやったのか、他のチームメンバーは何をやったのかが曖昧な記述になっているのが原因でした。

基本コンピタンスは満たしているが実務経験が不足しているためプロジェクトマネジメントや導入推進に関わるコンピタンスが不足しているケース、実践されたコンピタンスの記述が少なく能力の再現性に疑問があるケースもこれまでと同様に多く見受けられました。専門家、スペシャリストの実務経験はそれぞれ5年以上、2年以上となっていますが、5年もしくは2年あれば十分と言うことではありません。

また、各コンピタンスの記述に冒頭にあるそのプロジェクトにおける課題、目的の記述が不明確もしくは記述がない場合があり、コンピタンスの実践が的確に実証できない事例もありました。

さらに、ユーザビリティテストやインスペクション評価などの実施がHCDの基本に沿っていない記述もいくつか見受けられました。

書類審査方式で、記述されている内容からしか判断できないこの審査精度においては、申請者のコンピタンスの正しい理解と書き方を求めるとともに、さらにわかりやすい記述ガイドラインやコンピタンス説明書を用意してゆく必要性があると感じています。

 

5. 来年度以降に向けて

人間中心設計専門家認定制度は、現在1級相当の資格として「認定専門家」、2級相当の資格として「認定スペシャリスト」で構成されています。さらに、3級相当の検定試験を14年度中には試行できるよう準備中です。

専門家の多くはユーザビリティや、人間中心設計、ユーザーエクスペリエンスデザインの業務を専門とされていますが、スペシャリストの資格は人間中心設計を専業としないデザイナーやエンジニア、商品企画の方々にももっと多く取得していただきたい資格です。今後、積極的な広報活動を通じて、さらに既に資格を取得された専門家・スペシャリストの皆さんからの働きかけによって、裾野を少しでも広げてゆきたいと考えています。

また、人間中心設計実践に求められるコンピタンスの見直しに関しても、継続して検討し常に現状求められる能力に沿った認証を実施してゆくつもりです。

 

6. お願い

本資格は、HCD-Netが人間中心設計実践において定めた一定の基準を充たしたことを認めるものであり、今回資格を認定された方は、各方面において今まで以上に人間中心設計の実践に励まれるとともに、啓蒙普及にご尽力いただくようお願いいたします。
また、今回基準に満たなかった方々も、人間中心設計専門家・スペシャリストまたはそれに準ずる資格に認定される方々ばかりと認識しておりますので、なお一層の実践を通したスキルの獲得、知識の習得により来年度以降の積極的な申請を心よりお待ちしております。

 

なお、この制度は、3年ごとに資格を更新する仕組みになっています。すでに、資格を取得された多くの専門家が、人間中心設計分野での実践、知識の習得などを通じて必要なポイントを獲得し、資格を更新されています。


最後になりましたが、審査にあたり認定人間中心設計専門家の方々に、お忙しい中にもかかわらず多くのご協力をいただきました。改めてこの場を借りて御礼申しあげます。

2014年4月
NPO法人人間中心設計推進機構
規格化/認定事業部 専門家資格認定委員会