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大変遅くなりましたが、2016年度の専門資格認定試験の審査結果をご報告いたします。
1. 審査結果
NPO法人人間中心設計推進機構(HCD-Net)専門資格認定センターが、2009年度から実施している「人間中心設計専門資格」の2016年度(第8期)試験が完了しました。既に合格者の発表は3月末にすんでいますが、今年度は49名の方々が「人間中心設計専門家」として、また2014年度から新設された「人間中心設計スペシャリスト」として43名の方が認定されました。合格者全体の内訳は、HCD-Net会員が16名、一般が76名です。
専門家、スペシャリストを合わせると受験者数は昨年度に対してほぼ横ばいでしたが、専門家の活動が各方面のWebサイトで広く告知されたこと、専門資格を名刺の肩書に記載している方が増えたことなどにより、この制度に関する関心が確実に定着してきたのは間違いないようです。
ただ残念なことに、今年度も受験申込をされながら最終的に申請書を提出されなかった方が目立ちました。現在の申請用紙の記載の手間が非常に大変なことが要因の一つと捉えており、改善施策の検討に着手しています。
2. 審査基準
HCD/UXDの専門家に求められるコンピタンスは時代の要請とともに少しずつ変化しています。専門資格認定センターでは、毎年必要とされるコンピタンスや申請用紙、記述例などの精査、見直しを行って来ました。2016年度は、2013年度版の体系は維持しつつも以下2点を意識してコンピタンスの説明を全面的に見直しました。
1)受験者にとって理解がばらつくコンピタンスの説明をわかりやすくする
2)UX(利用時の品質)や長期的ユーザビリティを意識するべきコンピタンスについて、その旨の説明を追記わかりやすい記述にする
併せて、申請時に記載する文字数制限の存在を強くアピールした用紙フォーマットとなるよう見直しを行ない、申請者・審査者双方の利便性向上をめざしました。一部の受験者に見られる、やったことだけをひたすら冗長に記述することを防ぐ効果とともに、審査者にとっても効率的で、より確度の高い審査ができる効果を期待しました。期待した効果が得られたと考えております。
3. 認定機関の位置づけ見直しと倫理指針の策定
認定制度の発足時は、機構直下の規格化/認定事業部 専門家資格認定委員会が認定機関でした。2015年度からは認定組織としての中立性をよりアピールでき、将来の国内外機関との相互認証を見据えて機構内でもできるだけ独立した認定組織とすべく、事業部とは別の「人間中心設計専門資格認定センター」として位置づけ直しました。
これに合わせて、認定試験において、受験者を保護するとともに審査・判定の厳密性、正確性、再現性を確保することを目的とした倫理指針を策定して公開しました。対象者は認定センターメンバーや認定試験に関わる事務局員と審査員です。
これらの、見直しにあたっては人間工学会の認定専門家制度を参照しました。
4. 審査経緯
2016年度は以下の日程で審査を行いました。
募集要項公開 2016年11月25日
申請開始 2016年11月25日
申請締切 2016年12月26日
書類提出締切 2017年1月25日
合格発表 2017年3月31日
今年度も関西地区を含め受験者説明会を2回、審査員説明会を1回行いました。今年度は初の試みとして以下を目標とした審査員ワークショップを実施しました。
1)特に初めて審査を行う方々に審査基準を正しく理解していただくこと
2)何度目かの審査を行う方々には最新のコンピタンスへの理解を深めること
審査に当たり、非常に効果的と実感できましたので、次年度以降も続けていく所存です。
今年度は認定専門家の人数が多くなってきたことから、これまで通り審査経験年数多い方を必ず含めるとともに、1人の受験者に対して同業種、異業種からなる5人から6人の審査員が厳正な審査を行いました。
最終的には、専門資格認定センター有識者で構成された専門資格判定会議において、一人一人の受験者の審査結果に関して各審査員の審査内容を個別に確認し、最終的な合否の判定を行いました。
5. 認定試験(申請、審査)における課題と対応
今年の審査においても、受験者説明会で強く意識し説明しているにもかかわらず、記述の内容からは申請者が主体的にどのように関わっているかが読み取れない申請が多くありました。またHCD/UXDの手法が広く行き渡ってきたためか、単に手法を適用したことしか記述しておらず、どのようにコンピタンスを発揮して成果をあげたのか読み取れない記述が散見されました。今後も受験者に記述のポイントが確実に伝わる方法をさらに検討していきます。
近年の傾向として、コンピタンスの理解が不十分と推測されるケースが増えたように感じました。認定制度への関心が高まり、多彩なバックグラウンドの方々が受験するようになったのに、コンピタンスマップやコンピタンス記述書(B-3)の説明の読み込み不足が一因のように思われます。コンピタンスの説明を大きく見直したにも関わらず、そのような記述が多いことに戸惑いつつも、記述における手順などさらなる改善を検討していきます。
本認定試験は、記述された内容のみで合否を判断する書類審査方式です。わかりやすい記述ガイドライン、記述例、コンピタンス説明書を用意することはもちろんですが、申請者の皆さんに、(説明会等に参加する、もしくはビデオを見ていただき、) コンピタンスの定義の正しい理解と書き方を確実に理解していただく必要性があると考えます。
一方、先に紹介した審査員ワークショップの実施のように、審査員候補である認定専門家の方々に向けたコンピタンス全般に対する理解を深めることができる施策も実施しております。引き続き、審査結果の精度を高めることや、審査のばらつきをさらに低減させる施策の実施を継続していきます。
昨今人間中心設計の実践においてもビジネスや組織改革のためのコンピタンスがより求められるようになってきています。認定に必要とされるコンピタンスもその内容を継続して見直し、常にその時代に求められる能力に沿った認定を実施してゆくつもりです。
定義の見直しを、今年度も実施ましたが、さらに多くのHCD専門家の方を巻き込んで検討を進めていきたいと考えています。
また、前述のように受験申し込みをしながらも申請ができなかった方々が多いここ数年の現状を改善するため、受験者に無駄に手間をかけている現状を認識し、改善する施策について本格的な検討を始め、来年度からの施行を目指しています。
6.今後の展開
「認定HCD専門家」「認定スペシャリスト」の認定者の合計は700名近くまで増えました。HCD専門資格認定制度が、各方面で大きな社会的責任を負っていること、ひしひしと感じております。
よって今後のあるべき組織体制として以下を重視していきます。
・HCD専門資格認定制度が中立で公正、厳密な制度であることをさらにアピールできる組織体制にする
・認定された方々の積極的な交流の場を設ける、専門能力・スキル維持、向上のための教育を実施するなど、資格保持者へのサービスを充実させること
・国内外における他の関連認定制度との連携など、積極的に社会的にアピールできる資格を目指していくこと
そのためには、来年度以降、さら認定機関としての独立性、中立性を高める必要があります。具体的なプランが固まりましたら、皆さまにご提案させていただきます。
専門家の多くはユーザビリティ、人間中心設計、ユーザーエクスペリエンスデザイン、サービスデザインの業務を専門とされていることが多いと思いますが、スペシャリストの資格は、まだ実戦経験が少ない方々や人間中心設計、ユーザーエクスペリエンスデザイン、サービスデザインを専業としないデザイナーやエンジニア、商品企画の方々、HCD-Netにまだ関わりの少ない業種の方々にももっと多く取得していただきたい資格です。今後、積極的な広報活動を通じて、さらには既に資格を取得されている専門家・スペシャリストの皆さんからの働きかけによって、裾野を少しでも広げてゆきたいと考えています。
なお、以前からご案内していたHCD/UXDに関する検定試験については、今年度はトライアル実施へと至ることができました。トライアルで得た知見を踏まえて内容を見直し17年度の実施に向けて準備を進めていきます。
7. お願い
毎年のお願いではありますがあらためて。
本資格は、HCD-Netが人間中心設計実践において定めた一定の基準を充たしたことを認めるものであり、今回資格を認定された方は、各方面において今まで以上に人間中心設計、ユーザーエクスペリエンスデザイン、サービスデザインの実践に励まれるとともに、啓蒙普及にご尽力いただくようお願いいたします。また、実践を積む中でより幅広いコンピタンスを発揮できる専門家をぜひ目指してください。
また、今回基準に満たなかった方々も、人間中心設計専門家・スペシャリストまたはそれに準ずる資格に認定される方々ばかりと認識しておりますので、なお一層の実践を通したスキルの獲得、知識の習得により来年度以降の積極的な申請を心よりお待ちしております。
なお、この制度は、3年ごとに資格を更新する仕組みになっています。すでに、資格を取得された多くの専門家が、人間中心設計分野での実践、知識の習得などを通じて必要なポイントを獲得し、資格を更新されています。
最後に、審査にあたり300名近い認定人間中心設計専門家の方々に、お忙しい中にもかかわらず多くのご協力をいただきました。改めてこの場を借りて御礼申しあげます。
2017年6月
NPO法人人間中心設計推進機構
人間中心設計専門資格認定センター
センター長 伊藤潤