HCD認定ニュース

2017年度の専門資格認定試験の審査結果をご報告いたします。

1. 審査結果

NPO法人人間中心設計推進機構(HCD-Net)専門資格認定センターが、2009年度から実施している「人間中心設計専門資格」の2017年度(第9期)試験が完了しました。既に合格者の発表は3月末にすんでいますが、今年度は54(昨年比+5)名の方々が「人間中心設計専門家」として、また2014年度から新設された「人間中心設計スペシャリスト」として69(昨年比+15)名の方が認定されました。合格者全体の内訳は、HCD-Net会員が12名、一般が111名です。

専門家、スペシャリストを合わせると応募者数は昨年度に対して3割強アップは予想外でした。このため受験者説明会の申込者も100名を超え、何とか広い会場を確保できてホッとしました。専門家の活動が各方面のWebサイトで広く告知されたこと、専門資格を名刺の肩書に記載している方が増えたことなどにより、この制度に関心を寄せる方々のすそ野が一気に広がりつつあるようです。喜ぶと同時にしっかりした運営をより意識すべきと認識しました。
残念なことに、ここ数年続いている受験申込をされながら最終的に申請書を提出されなかった方が目立つ傾向が続いています。今年度から申請用紙のExcel依存をGoogle form併用に変更して記載の敷居を下げたのですが、フォーム自体の見直しも必要と改めて強く認識し、18年度の重点施策に据えました。

2. 審査基準は昨年度継続、審査方法を見直し

HCD/UXDの専門家に求められるコンピタンスは時代の要請とともに少しずつ変化しています。専門資格認定センターでは、毎年必要とされるコンピタンスや申請用紙、記述例などの精査、見直しを行って来ました。2017年度は、2016年度に見直したコンピタンスの説明がより見やすく、読みやすくなるようにコンピタンス全説明の記載フォーマットを全面的に見直しました。
17年度の重点目標は、申請者の負荷を減らすと定めました。申請時に記載する内容との申請用紙の重複を見直すべく、申請手続きを見直すこと。申請書類の郵送併用を廃止すること。Excelを持っていないユーザーでも申し込めるようにすること。などを目指して、申請手続きや、申請方法を大幅に見直しました。結果6割の方がGoogle スプレッドシートを用いた申請方法に移行しました。
他方、社内ネットワークではGoogleサイトにアクセスできないなどの理由からGoogleアカウントの利用を前提とした申請方法に対応できない方が想定以上に多く、期待通りに申請時の負荷が減らせなかった方々も居たこと、この場を借りてお詫びを申し上げます。
ところで、今年の結果を分析して興味深い結果が出たので報告しておきます。それは受験者説明会出席者とそれ以外を比較すると、説明会出席者の合格率が高いということです。説明会で伝えている申請書類を書く際の留意点などが伝わったことが影響しているのではと考えております。説明会参加への推奨と、参加できなかった方々もビデオや資料などをしっかり確認いただくことの重要性を今まで以上に18年度の応募者にも伝えていきます。

3. 認定機関の位置づけ見直しと倫理指針の策定

9期の専門家認定を終え、のべの認定者は800名を超えています。18年度は、より公正な認定制度としてどうあるべきか、本認定制度取得の意義をどう高めるかなどを意識して「人間中心設計専門資格認定センター」の在り方についての新しい提案を考えています。昨年度、HCD-Netとは別の認定機関となることを検討中と伝えましたが、改めて多様な選択肢を考慮しつつ、取得意義のある認定資格となること、適切な認定制度を継続的に維持できる体制にすること、などを優先して判断していく所存です。
2015年度に制定した倫理規定は、認定試験において、受験者を保護するとともに審査・判定の厳密性、正確性、再現性を確保することを目的としています。対象者は認定センターメンバーや認定試験に関わる事務局員と審査員です。

4. 審査経緯

2017年度は以下の日程で審査を行いました。
募集要項公開 2017年11月20日
申請開始 2017年11月20日
申請締切 2017年12月25日
書類提出締切 2018年1月22日
合格発表 2018年3月31日
今年度も関西地区を含め受験者説明会を2回、審査員説明会を1回行いました。今年度も以下を目標とした審査員ワークショップを継続実施しました。
1)特に初めて審査を行う方々に審査基準を正しく理解していただくこと
2)何度目かの審査を行う方々には最新のコンピタンスへの理解を深めること
公正な審査実施に、効果的ですので、次年度以降も続けていく所存です。

今年度は認定専門家の人数が多くなってきたことから、これまで通り審査経験年数多い方を必ず含めるとともに、1人の受験者に対して同業種、異業種からなる5人の審査員が厳正な審査を行いました。

最終的には、専門資格認定センター有識者で構成された専門資格判定会議において、一人一人の受験者の審査結果に関して各審査員の審査内容を個別に確認し、最終的な合否の判定を行いました。

5. 認定試験(申請、審査)における課題と対応

残念ながら今年も以下の記述を繰り返し指摘することとなりました。一つは受験者説明会で強く意識し説明しているにもかかわらず、記述の内容からは申請者が主体的にどのように関わっているかが読み取れない申請が多くありました。二つ目はHCD/UXDの手法が広く行き渡ってきたためか、単に手法を適用したことしか記述しておらず、どのようにコンピタンスを発揮して成果をあげたのか読み取れない記述が多かったことです。今後も受験者に記述のポイントが確実に伝わる方法をさらに検討していきます。

そして、コンピタンスの理解が不十分と推測されるケースが多い傾向は変わりませんでした。認定制度への関心が高まり、多彩なバックグラウンドの方々が受験するようになったのに、コンピタンスマップやコンピタンス記述書の説明の読み込み不足が一因のようです。18年度は申請フォームを見直してこの事態に対処していく予定でいます。そのうえで今後受験される方々にコンピタンスを読み込んで理解することの重要性をしつこく伝えていきます。
毎年の繰り返しになりますが、本認定試験は、記述された内容のみで合否を判断する書類審査方式です。わかりやすい記述ガイドライン、記述例、コンピタンス説明書を用意することはもちろんですが、申請者の皆さんに、(説明会等に参加する、もしくはビデオを見ていただき、) コンピタンスの定義の正しい理解と書き方を確実に理解していただく必要性があると考えます。
一方、先に紹介した審査員ワークショップの実施のように、審査員候補である認定専門家の方々に向けたコンピタンス全般に対する理解を深めることができる施策も実施しております。引き続き、審査結果の精度を高めることや、審査のばらつきをさらに低減させる施策の実施を継続していきます。
昨今人間中心設計の実践においてもビジネスや組織改革のためのコンピタンスがより求められるようになってきています。認定に必要とされるコンピタンスもその内容を継続して見直し、常にその時代に求められる能力に沿った認定の実施を進める必要性は例年伝えています。しかしながら、近年は制度見直しで手一杯でコンピタンス見直しまで手が回っていないのが現状です。コンピタンス体系のあるべき姿の再検討に携わっていただける新メンバからの申し出をお待ちしています。

6.今後の展開

「認定HCD専門家」「認定スペシャリスト」の認定者の合計は800名を超えるまで増えました。HCD専門資格認定制度が、各方面で大きな社会的責任を負っていること、ひしひしと感じております。先にも述べましたが、以下を意識した新しい組織体系を提案するべく準備を進めていきます。

よって今後のあるべき組織体制として以下を重視していきます。
・HCD専門資格認定制度が中立で公正、厳密な制度であることをさらにアピールできる組織体制にする
・認定された方々の積極的な交流の場を設ける、専門能力・スキル維持、向上のための教育を実施するなど、資格保持者へのサービスを充実させること
・国内外における他の関連認定制度との連携など、積極的に社会的にアピールできる資格を目指していくこと

専門家の多くはユーザビリティ、人間中心設計、ユーザーエクスペリエンスデザイン、サービスデザインの業務を専門とされていることが多いと思いますが、スペシャリストの資格は、まだ実戦経験が少ない方々や人間中心設計、ユーザーエクスペリエンスデザイン、サービスデザインを専業としないデザイナーやエンジニア、商品企画の方々、HCD-Netにまだ関わりの少ない業種の方々にももっと多く取得していただきたい資格です。今後、積極的な広報活動を通じて、さらには既に資格を取得されている専門家・スペシャリストの皆さんからの働きかけによって、裾野を少しでも広げてゆきたいと考えています。

7. お願い

毎年のお願いではありますがあらためて。
本資格は、HCD-Netが人間中心設計実践において定めた一定の基準を充たしたことを認めるものであり、今回資格を認定された方は、各方面において今まで以上に人間中心設計、ユーザーエクスペリエンスデザイン、サービスデザインの実践に励まれるとともに、啓蒙普及にご尽力いただくようお願いいたします。また、実践を積む中でより幅広いコンピタンスを発揮できる専門家をぜひ目指してください。

また、今回基準に満たなかった方々も、人間中心設計専門家・スペシャリストまたはそれに準ずる資格に認定される方々ばかりと認識しておりますので、なお一層の実践を通したスキルの獲得、知識の習得により来年度以降の積極的な申請を心よりお待ちしております。

なお、この制度は、3年ごとに資格を更新する仕組みになっています。すでに、資格を取得された多くの専門家が、人間中心設計分野での実践、知識の習得などを通じて必要なポイントを獲得し、資格を更新されています。

最後に、審査にあたり300名近い認定人間中心設計専門家の方々に、お忙しい中にもかかわらず多くのご協力をいただきました。改めてこの場を借りて御礼申しあげます。

2018年5月
NPO法人人間中心設計推進機構
人間中心設計専門資格認定センター
センター長 伊藤潤