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ショートコラム Vol.120
2回目の専門家資格の更新をなんとかクリアし、あらためて人間中心設計専門家である責務について考えてみた。現在、我々を取り巻いているビジネス環境の変化は、良きにつけ悪しきにつけ、フィリップコトラーが語る言葉にある、と私は思っている。「コトラー大先生は、次に何を語るのだろうか?」と、コンサルティングファームや企業の経営層は固唾をのんで暗に待っている。そしてお言葉が発せられると、真意まで理解したかは別として、その新たな羅針盤を手に、じわりとそして確実に前に進んでくる。やがてその言葉は、数年をかけて開発やデザインの現場に染みわたってくる。
そういえば最近、 社会的価値を実現しようとする仕事もボチボチと増えてきた。クライアントにその気がなくても、こちらから提案すると、案外すんなりと受け入れてくれるようになった気もする。そう、コトラーがマーケティング3.0で言及し、ポーターが共通価値の創造という概念をぶち上げて急速に浸透したあれが現場に落ちてきているのである。もともと日本の企業は、近江商人の家訓が表わすように、商いが社会的な責任を果たすことは当然と考えられていた。しかし、消費社会の成熟化、価値観の多様化、グローバル化とともに、生得的に持っていた大事なことを忘れかけていたのだと思う。そんなビジネス環 境の中、人間中心設計専門家には大きな期待がかかっている。
そもそも「人間」 という言葉は「人と人の間」、「人と物事の間」を指し、「人の住む世界」、「世間」という意味が本来であった。ありていに言えば「社会」という意味である。現在のように「ヒト」そのものの意味が加わり、より一般的になったのは最近のことだという。結局のところ、人間中心設計専門家は、「人間」という言葉の本来の意味からは逃れられない。個々のユーザーの充足を図りながらも、社会的アウトカムも成立させる取り組みが、今後益々意識されるのだろう。