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さて、今回は2回目。ユーザ工学というのは「ユーザが人工物との関わりのなかで、可能なかぎり適切にその目標を達成できるようにしようと考える研究領域」いいかえれば「人がある目的を達成しようと手を加えたものごとすべて」に焦点を当てようとしてるということが分かったとしましょう。では一体何を目指してるんだろう、という話にしましょう。
ありていに言えば「その関係性の最適化を図る」ということになります。そんなこと当然予想されたでしょうね。だからもう少しちゃんと書くことにしましょう。
まず人間の行動は基本的に、かつ広義に解釈すればすべて目標達成行動だといえます。食事をするというのは、空腹という現状と満腹という目標状態の落差を埋めようとする行動であり、目標達成行動の典型。洗濯だって勉強だってお仕事だってセックスだって、そういう図式でとらえることができます。その意味ではノーマンの7段階図式というのは広義に解釈すればすべての人間行動をカバーすることができる。
まてまて、それじゃあラスムッセンの3段階モデルが表現しようとしているような外部事象にトリガーされた行動はどうなんだ。車を運転するのは目的地に到達しようとか、ドライビング感覚を満足させようということで目標達成行動だし、追い越しするんだって目標達成行動だ。行動の前に明確な目標が設定されている。でも隣から急に割り込んできた車に対して急ブレーキを踏むような「受動的」な行動のトリガリングはどうなんだ。原発で炉心昇温事故が発生した時の対応行動はどうなんだ。でも良くラスムッセンのモデルを見てみましょう。そうした外部事象が最初のトリガーにはなりますが、即座にそれに対する目標を設定し、それを達成すべく行動しているという形になっています。反射レベルの行動はそういえないようにも見えますが、それは同じような行動が反復し、パターンが内化された結果といえますから、やはり目標達成行動とみていいでしょう。
じゃあ無意識の行動はどうなんだ。夢をみるってのはどうなんだ。それも目標達成行動だって言い張るんか。ユーザ工学はそこまで触手をのばしたがるんか。バカじゃん。いやいや何事にも程度というものがありまして、寝返りうって隣にねてる俺様の顔を腕でぶんなぐる、ってのはたしかに・・でもちょっと無理して考えれば、そういう痛い思いをしないで済むように就寝環境の設計をする、ってのも大切なことなんじゃないでしょうか。超ユーザ工学はそれすらも対象にすると・・。
そんなわけでちょっとは逃げを打っておきましょうか。いちおう意識的な行動は、というように限定詞ではなく強調修飾語をつけておくことにしましょう。ま、これで一応目標達成行動という概念は説明できたことにします。ちょっと簡単すぎるけど。
ここでいきなりISOの規格の話にとびます。というか、現在一番簡単に楽にユーザビリティを定義しているのがISO9241-11におけるユーザビリティの定義だからです。安直にそれを引用してしまうと、そこではユーザビリティってのは「ある製品が、指定された利用者によって、指定された利用の状況下で、指定された目的を達成するために用いられる際の、有効さ、効率及び利用者の満足度の度合い。」とされています。ユーザビリティの概念については改めて詳しく書きますし、この定義で十分とは思っていない私がいるのですが、とりあえず、ここにある有効さ、効率、満足度の三つを目標達成において可能なかぎり満たそうとすること、これがユーザ工学のやりたいこと、といっていいでしょう。
(第2回・おわり)