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ユーザビリティを考えるためにはユーザのことを考える必要があります。あたりまえです。
ユーザについては
- ・特性の多様性
- ・状況の多様性
- ・目標内容の多様性
- ・目標水準の多様性
といったユーザにおける多様性に関する観点と
- ・考慮の対象とするユーザの範囲
- ・多様性への対応の仕方
といったデザイン(設計)側の観点の両方からの検討が可能です。
今回はまず特性の多様性という点を扱うことにします。となると、当然考えなければいけないのがユニバーサルデザインとの関係です。ユニバーサルデザインには様々な定義がありますし、またあり得ます。一つの古典的定義として「できる限り最大限すべての人に利用可能であるように、製品、建物、空間をデザインすること (design for all)」というものがあります。これに対してMaceという人が提唱した7原則というものが良く知られています。
- 誰にでも公平に使用できること (Equitable Use)
- 使う上での自由度が高いこと (Flexibility in Use)
- 簡単で直感的にわかる使用方法となっていること (Simple and Intuitive Use)
- 必要な情報がすぐ理解できること (Perceptible Information)
- うっかりエラーや危険につながらないデザインであること (Tolerance for Error)
- 無理な姿勢や強い力なしで楽に使用できること (Low Physical Effort)
- 接近して使えるような寸法・空間となっていること (Size and Space for Approach and Use)
歴史的にはユニバーサルデザインはアクセシビリティの流れから出てきたといえます。アクセシビリティは人工物へのアクセスを向上させようという目的をもっており、従来アクセスが困難であった障害者や高齢者を主たる対象としていました。それまで、たとえば障害者については福祉機器という形での対応が取られていましたが、福祉機器というのは特別に設計された機器。したがって大量生産には向かないし、コストもかかる。中小企業が細々と対応するという状態が続いてきました。しかし、障害というのは健常者も持っている特性が顕著に表れている場合である、さらに高齢者というのは誰でもが加齢とともに一種の障害を身につけてゆくことである、という見方からすれば、特に重篤な障害の場合をのぞき、健常者へのデザインを拡大して障害者や高齢者を対象とするデザインにしていくことができるはずです。ユニバーサルデザインの考え方が普及してきた背景には、こうした考え方や主張があったといえるでしょう。
ただ、ユニバーサルという言葉を使う以上は、障害や高齢化というだけでなく、あらためて人間の多様性を考えてみる必要がでてきました。その意味で人間の多様性を考えてみると、たとえば次のような特性が考えられます。これはEversさんがまとめたものに若干加筆しています。
- 年齢
- 性別
- 身体的能力
- 身体的状態
- 個人的興味・関心
- 生活史とライフプラン
- 年齢や世代
- 政治的志向性
- 心理的・情緒的特徴
- 生活場面の状況
- 教育的背景
- 経済状況
- 技術への親近性
- 異文化接触経験
- 言語
- 文化(価値観、伝統など)
- 宗教
- コミュニケーションスタイル
- 学習スタイル
- 地理的環境
- 帰属集団(民族、職業など)
- 時代背景
この中にはユーザが置かれている状況に関するものがまじっていますが、それについては別に議論します。ここでは特性、つまりユーザに付属する性質について考えたいと思います。こうした多様な特性のリストを見ていると、障害は身体的能力という特性の中に、高齢化は年齢という特性の中に位置づけられます。しかしユニバーサルデザインが対象とすべき多様な特性には、その他にももっといろいろなものがあるということがわかります。現在でも、ユニバーサルデザインというと障害や高齢化を対象にしたものであるという誤解が結構残っていますが、本来はもっと多様な特性を考えるべきだということでもあります。最近のユニバーサルデザインの考え方はこのようにシフトしてきているといえるでしょう。
さて、ユニバーサルデザインの定義や原則を改めて見ていただくと、それってユーザビリティにとても近いことが分かります。前述の「できる限り最大限すべての人に利用可能であるように、製品、建物、空間をデザインすること (design for all)」という古典的定義で、利用可能ということをユーザビリティに近い概念であるとすれば、ユーザビリティとの違いは「できる限り最大限すべての人に」というところだけにあるといってもいいでしょう。その意味で、ユーザ工学とユニバーサルデザインの活動とは兄弟分のようなものと考えて頂くといいでしょう。現に、この考え方を明示する意味でユニバーサルユーザビリティという言い方も提唱されています(Shneiderman)。いいかえれば、ユーザ工学が多様なユーザを考慮すればそれはユニバーサルデザインと同じことである、といえると思います。
唯一の違いとして、ユニバーサルデザインは理念であり、ユーザ工学は実践のための方法論を扱うという点でしょう。ユニバーサルデザイン固有の方法というのは特にない、その意味でユニバーサルデザインはユーザ工学の方法を利用して実践に入っていく必要がある。両者の関係はこのように捉えることができます。ユニバーサルデザインの関係者の中には違った見方をする方もおられますが、少なくともユーザビリティ関係者のユニバーサルデザインの見方はこうしたものです。
こうしたことから、現在のユーザ工学では、対象となるユーザについて、可能な限りその多様性に対応することが大きな原則となっているわけです。
(第4回・おわり)