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先日のニュースレターの海外カンファレンス報告コーナーにて、6月に開催されたUX STRAT Europeにての記事を書いた。その中で、UXとCXを区別していたことについて、以下のように紹介した。
—— 以下引用 ——
まず、UX(User Experience)とCX(Customer Experience)について明確な使い分けがなされていたことがあげられる。具体的には企業から見て、総合的な顧客の体験がCXで、そのなかでのデジタル体験についてをUXと識別していた(イメージ的にはUXはCXのサブセットになっている)。何人かのスピーカーのプレゼンテーションのなかでこのことが言及されており、参加者の共通認識として共有されていた。筆者の知る限り、日本でも北米でもUXとCXの使い分けはあいまいであり、ほぼ同じ意味を差していることが多い。善し悪しはともかく、こういった用語の定義に明確なコンセンサスが生まれることは、プロセス改善や手法の普及においては生産的な効果が見込めることが多い。個人的にはUXをデジタルと限定してしまうことには抵抗を感じているが、このあたりはHCD-Netの会員のみなさんからのご意見もうかがってみたい。
—— ここまで ——
この内容は、何人かからフィードバックもいただき、また、自分でもその後思うところがあるため、ここに記したいと思う。
私自身、「UXデザイン」「UX」という言葉を使うとき、特にデジタルに限定してとらえてはいない。むしろ、サービスデザインの文脈でUXという言葉を使うときは、デジタルのタッチポイントは登場しないこともある。ここでいうUserはサービスであれプロダクトであれ、その「利用者」を想定している。
しかしながら、個別のプロジェクトにおいて、たとえば飲食店のサービスデザインを考えるとき、そこで飲食を行う対象者を「User」と呼んでよいかと考えると、正直違和感を感じることはある。この場合は、Customer= 顧客という言い方の方がしっくりくる。かといって、では、これまでUXと呼んでいた概念をすべてCXに置き換えられるかというと、そこには若干の抵抗感がある。
この抵抗感はほんとうに感覚的なもので、Customer= 顧客という言葉から「購買をする」行為の印象を持ってしまい、また、事業者対顧客という関係性も感じてしまうことに起因するように思う。利用者の視点だけでなく、それを提供する事業者やビジネスの視点を感じてしまうから、ともいえる。その意味でUserのほうは、それが買ったものであれ、もらったものであれ、拾ったものであれ、「利用している人の」という印象をそこから受けるため、平穏を感じることができるのであると思っている。言い方を変えれば、CXという言葉に、ユーザーのことを考えるだけはなく、マーケティングのニュアンスを感じてしまうということでもある。
このように、私自身のUXとCXという言葉の使い方には、厳密な定義よりも、感情的な要因が関わっていそうである。その意味で言うと、逆にデジタルや人工物デザイン以外の人からすれば、UXという言葉が生まれた背景にユーザビリティおよびUIがあるということも影響するかもしれない。つまり、UXを語るとき、常にユーザビリティやUIが関わってくるとするとそれはそれで面倒なものとして受け取られてしまうことも考えられる。
と、堂々巡りの議論となってしまっているが、このような逡巡があり、素直にCX > UXを受け入れられないというのが率直なところとなる。
個人的にはUX一本でいきたいと思っているが、さらにHCD-Net会員のみなさんのご意見もうかがいたいと思っている。