HCDコラム

「初めまして」な関係性のメンバーとワークショップをやる時のアイスブレイクとして、私は「似顔絵ワーク」がお気に入りだ。隣同士がペアとなり1分で互いに似顔絵を描く。描けたら相手の名前を添えて、似顔絵をプレゼントしあうのである。

これを、まだ自己紹介もしていないよそよそしい状態で実施するのが何より楽しい。それまでシーンと緊張感のあった場が、期待どおり騒然とする。「えー!絵なんて何年も描いてないよ」「すみません、私、へたくそで・・・」ワクワク楽しそうな表情をするメンバーがいる一方、頭を抱えて困惑するメンバー、描く前からひたすらペアに謝るメンバーと、その反応は三者三様である。なお、メンバーにデザイナーがいることはほぼなく、多くの場合、私と同じIT屋である。

ストップウォッチ片手に「ヨーイどん」の合図を出し、似顔絵を描きだす。互いに真剣な表情で描いているのだが、そこにはもう席に着いたばかりの緊張した空気はない。シーンと静まる中になんともいえない温かい空気が流れているのだ。もしかすると、少しでも相手を上手に描いてあげたいと思いやる皆の気持ちが温かい空気を作っているのかもしれない。お互いの顔を観察する中でふと目が合うと、どちらからともなく照れくさそうに微笑みあう。まさに氷が溶けあう瞬間だ。

描き終えて交換しあう頃には笑顔があふれ、対話しやすい場ができあがっている。ここで、自由な発想や、否定禁止のマインド、描きながら考えるプロセスなどを関連づけて説明すると、スムーズにメンバーに腹落ちしていくように思う。

HCDを実践する中で、プロセスを回すことよりも、ワークショップにおける場づくりや、メンバーのマインドセットを切り替えていくことに日々難しさを感じ、また一方でやりがいも感じる。まるめた模造紙を担いで意気揚々とお客様の会議室の扉を開けると、ドーンっとコの字型に大きな机が並び「(席が)遠いなー」と苦笑いすることも多い。けれども、そんな時こそ俄然やる気が出るものだ。初めはHCDプロセスに懐疑的であったり、プロジェクト自体やらされ仕事だったりしたメンバーの心の内に、ワークショップを通して変化が生じ、共創しあえる仲間になりえた時、HCDの効果を最大化させることができると思う。そのためにも、その土台となる「場づくり」が非常に重要な意味を持つ。

思えば、この世界に飛び込んだのも多様なメンバーがつながることで生まれるシナジーの爆発的な力に魅了されたからだった。人と人をつなぐ初めの一歩として今後も似顔絵ワークを続けようと思う。


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