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エレベーターに乗って行先の階数を押し間違えた時、取り消す方法をご存知ですか。大抵は数字のボタンを「2度押し」すると取り消しできます(機種の仕様や、設置者の意向で使えない事もあります)。業界団体で標準化される以前は、メーカーによって単押し、長押し、5回連打、指でなぞるなど、様々な操作方法がありました。なんだか「裏コマンド」のようでワクワクしますね。
こうしたエレベーターの行先を取り消す操作ができるようになったのは、2000年代前半、継電器制御からソフトウェア制御に置き換わった頃からです。行先を変更される度に、他のかごも含めて少し先の未来まで全体を最適化しながら運行するため、制御が結構大変なんですね。最近ではAIエレベーターといって、過去の稼働履歴から推測して、自律的に効率良く動くものもあるそうです。
エレベーターに限らず、人間の入力を先読みして裏で動く賢いシステムが増えてきました。最初にほんの少し入力すれば、残りをシステムが代行してくれるので、オンラインショッピングなども随分楽になりました。ただ、入力が簡単になればなるほど、うっかり間違いやシステムの誤解釈も増えますから、後から取消/変更する手段の設計が重要になってきます。エレベーターの行先ボタンのように対象が明快であれば簡単なのですが、システムが勝手に推測した結果だったり、入出力が音声対話だったりすると、処理の経緯や状況を説明しづらいため、どこまで情報を提示して、どう取り消しさせるかを考えるのがとても難しいです。
ソフトウェア開発に携わる人間中心設計専門家として、こうした取り消し操作の設計の比重が一昨年頃から急に増えたように思います。目には見えない無数の「裏コマンド」を、手作業で丁寧に埋め込んでいくような作業です。正常系の操作と違っていつ使われるかも分かりませんが、いつか誰かを小さく助けられたらいいなぁと思って、日々分厚い仕様書の山と格闘しています。