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弓道では射場から的までの距離十五間(28m)。的の直径は一尺二寸(36cm)ありますが、狙った先に見えるそれは1cm程度の小さな円でしかなく、最初は全く中(当た)りません。
多くのスポーツと同様に、弓道にもスキルを身に着けるステップがあります。弓矢を持たずに型を習うところから始まり、弓を引けるようになっても、しばらくは至近距離に置いた疑似的を目がけて矢を放つ練習を繰り返します。そうしてある程度型どおりに弓を扱えるようになると、ようやく射場に立つことを許され、本当の的を狙います。初めて射場から狙う的は本当に小さく、中らないとますます小さく見えます。もちろん的はどんな時でも一尺二寸なので、小さく見えるのは気持ちの問題なのですが、少し中るようになると逆に大きく見え、調子を崩したり、試合で緊張するとまた小さくなり・・。そんな繰り返しを通して心技体はまさに一体であることを学んでゆきます。
そして、少し上達してくると、的を見る“意識”を変えるだけでも的中率が変わることに気づきます。最初はわかりませんが、実はかなり漠然と的を狙っていたことに気づくのです。的全体ではなくその真ん中を狙うことで、より精度の高い射ができるようになります。
数年前、インタビュー調査を行った後に、不意にこのことを思い出しました。本質的欲求に目を向けているとはいえ、自分はまだ漠然としかユーザーを見ていないのかもしれない。ユーザーの真ん中にあるのは何なのだろうか。そう思って“意識”を変えてみたら、効果は直ぐに現れました。この人の本心、本人も気づいていないかもしれないニーズはどこにあるのだろうと、改めて焦点を合わせるように気を付けてみるだけで、インタビューから得られる知見は随分と変わったのです。
HCDにも心技体。学生時代の経験が思いがけず活きたと感じた出来事でした。