HCDコラム

人間中心設計専門家という肩書を使うことが増えてきました。初めての方と仕事をする際、信頼関係を築くためのツールとしてこの肩書を活用しています。手軽に自分のスキルや役割を伝えることができるからです。若い頃はそういった肩書もスキルもなく、仲間と一緒にユーザー調査のやり方を模索していました。勉強会を開いたり、お互いの取り組みの情報交換をしながらユーザビリティーテストなどに挑戦していました。今では、当時の自分たちのような方たちから相談を受けることも多くなってきました。そういう相談を受けた際、当時の自分たちの間違いや現在の状況を踏まえ、2つのことを意識するようにしています。

1つ目は、調査後にスムーズにネクストアクションにつなげられるようにすることです。
調査することの意識が高すぎるとそれ自体が目的化してしまうことがあります。調査はあくまでプロジェクトを成功させるための施策のひとつにすぎません。そのプロジェクトにとって調査の目的は何で、その目的を達成するためにどんなアウトプットが適切かを整理します。さらに想定するアウトプットを元にネクストアクションをシミュレーションします。これがまとまってから、ようやく手法の話をします。
初めてトライする人たちに、調査は特別なことではなく、プロジェクト活動の一環であることを理解して欲しいのです。

2つ目は、気軽に楽しく実施することです。
例えばインタビュー調査は、乱暴な言い方をすると日常会話の延長上のつもりで気軽に行えばいいのです。相談者の方たちは別に専門家を目指しているわけではありません。もちろん適切な問いかけや振る舞いなどは大切ですが、それよりはまずリラックスして会話をすることです。どんなことでも初めての挑戦は構えてしまうことがありますが、手軽で気楽なインタビューを体験してもらえれば、きっと調査に対しての心理的なハードルも下げられるのではないでしょうか。

UXデザインやHCDを踏まえたものづくりは、調査を一度行っただけでは実現しません。プロジェクトの流れの中で継続してもらうことが必要です。そのためにこれらのことを体験してもらい、次につなげてもらいたいのです。
ユーザーを見て、聞いて、感じることは何も特別なことではなく、当たり前のことである。そうなっていくよう、今後も人間中心設計専門家としての活動に取り組んでいきたいと思っています。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。