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私事ですが、2ヶ月ほど前に車を買い替えました。それまでの車は衝突被害軽減ブレーキやレーンキープアシストといった安全運転サポートは何もついていませんでした。安全装備というとABSブレーキとエアバックぐらいでした。自動運転レベルでいうとドライバーが常にすべての主制御系統(加速・操舵・制動)の操作を行う自動運転レベル0でした。その安全装備でも特段不自由は感じていなかったのですが、今度の車は標準装備で、衝突被害軽減ブレーキ、レーンキープアシスト、道路逸脱回避支援システム、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)、被追突時警告機能、CTA(クロス・トラフィック・アラート)等盛り沢山の安全装備でした。加えてACCとレーンキープアシストを組み合わせたパイロットアシストという設定速度以内で前車との車間を一定以上に保ちながら、レーンの中央を走るようにステアリングもコントロールする安全運転サポート機能がついていました。システムがドライビング環境を観測しながら、加速・操舵・制動のうち同時に複数の操作をシステムが行うが、ドライバーが常時、運転状況を監視操作する必要がある自動運転レベル2の技術を搭載した車でした。
もともと安全装備には無頓着な方でしたが、折角装備があるのだから使ってみようということで、自動運転レベル2を実感できるパイロットアシスト機能を高速道路で何度か使ってみました。最初は機能を信用できなかったので恐る恐るでしたが、何度か使っているとレーンキープのステアリング動作のフィードバックが強すぎたり気になることはありましたが、機能の挙動にも慣れ信用できるようになりました。ところが機能に慣れ信用しだすに連れ、特段運転前は眠かったわけでもないのに睡魔が襲いかかるようになってしまったのです。人が安全技術によりリスクが低下したと認知したときにリスクを高める方向に行動してしまうという、いわゆるリスク補償行動と言われるものの一種だと思われます。このリスク補償行動は様々なところで確認されていますが、ドライバーの行動ですと、以前からABSブレーキの導入がタクシードライバーの運転行動に影響を与えていることなどで知られています。
皆さんご存知のように自動車業界やその周辺業界は自動運転技術でしのぎを削っています。それでも無人運転となる自動運転レベル5にはまだまだ時間がかかると思われます。当面、自動運転技術はドライバーのロードを低減し、安全運転技術を向上させ交通事故のリスク低減に貢献して行くことになると思われます。しかしドライバーのリスク補償行動に注意を払わないと、安全運転技術の向上が新たな交通事故のリスクを生み出すことにもなりかねません。HCD-Netの会員の皆様の多くも自動運転技術に関わるお仕事をされていると思います。ドライバーを中心としたインタラクション設計を考えることの出来る会員の皆様には、ただ安全運転技術の向上を目指すのではなく、是非リスク補償行動にも配慮したドライバーのためのインタラクション設計を行っていただけたならば幸いです。リスク補償行動についてまとめられた社会安全研究所の芳賀先生の論文をご紹介いたしますので、ご興味があればご参考にされてください。
https://www2.rikkyo.ac.jp/~haga/files/jatras_march2012.pdf