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▼規制への対応と労働生産性の向上
「働き方改革が急務」と叫ばれているものの、その本来の目的である労働生産性の向上が忘れ去られている施策が目につくことがあります。
プログラムのユーザインターフェースや機能の設計あるいは改善においても、問題点のみに目が奪われて、局所的な対応をしたくなってしまうケースとよく似ています。
規制はあくまで規制であって数値目標(例えば残業時間のガイドライン)があるため、そこに向かって施策を打つこと自体に矛盾はないのですが、その目標の先にある「目的」に向かった施策でない限り、規制への対応が事業へのマイナスインパクトを与えたり、エンドユーザーへのサービス低下につながりかねません。
▼本質を見極めるためのインプットとしての「観察」
人事部と現場を離れた管理職や経営層で対策が検討される時、インプットが不足している状況が作り出されることがあります。
労働時間の統計、部門別残業時間のランキング、有給休暇取得率など、データとしては事実であり、概要を把握するためには有効なインプットとなります。しかし、改革や改善が必要な働き方の本質はそれらのデータには含まれていません。
HCDのプロセスが重要視している「観察」のプロセスをインプットとして実施してみれば、集計結果や統計には現れない「改善余地」の本質が見えてくるはずです。
システム開発などの請負やコンサルティングなどの準委任のビジネスの場合、相互に影響し合う複数のタスクが絡み合ったプロジェクトの性格であったり、「クライアント」という制御不能な要因の存在がよく見えてきます。
▼問題ではなく原因にアプローチ
規制への対応は組織として取り組む要件ではあるものの「残業時間の削減」といった表面的な問題への対処では解決しないことがほとんどです。
業務を行なっている現場には長時間労働の原因がすぐ隣に存在していることもあれば、幾重にも折り重なった歴史的経緯に封じ込められていることもあります。
「働き方改革」は問題の一つの側面をとらえた切り口にすぎません。現場のユーザーの視点(この場合は現場のスタッフやそのカウンターパートナー)から見た問題の表面とその背後に潜む構造から、問題を作り出している原因をあぶりだしていくことが重要です。
それは契約時点での合意内容や具体性に起因していることも少なくありません。
▼改善を考え出すために必要な時間の実感
原因がわかったとして、その解決が容易であるとは限りません。
何かの状況を変化させるために、交渉や工夫や改善のための試行錯誤、それら全てにおいて必ず必要になるのが「時間」です。その必要性をよく実感するために、一度試していただきたいことがあります。
・朝、脱いだパジャマをどこに片付けるか
・冬の帰宅時にコートをどこに片付けるか
・雨の日の部屋干しをどうするか
・パートナーの癖を直させるにはどうすればよいか
このような日常生活の中にある些細な問題に対して、解決のために業務として取り組んでみてください。
いずれも簡単に解決できる問題ではなく、ユーザーと行動文脈を伴って多様な問題の構造を作り出しているはずです。さまざまなアプローチ方法が考えられますが、結局一番短い時間で解決にたどり着くのは「家族もしくは自分を観察し、本音を炙りだすこと」であることがよく実感できるのではないかと思います。