HCDコラム

先日、環境省主催「第11回 日本版ナッジ・ユニット連絡会議」に聴講参加しました。「ナッジ」とは人間の無意識に働きかけて行動変容を促すテクニックのことで、環境省は地球温暖化対策の一環としてナッジに取り組んでいます。私の参加した回はナッジ事例の紹介が主たる内容でした。なお同会議の議事録は公開されていますので興味のある方はご一読ください。
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/11_1.html

私が非常に重要と感じたのは、論点整理という配布資料に書かれていた「倫理的配慮」という項目です。資料では「環境省の行なっているナッジの社会実験は心理学でいうところの介入実験であり、心理学研究における倫理規定と同様の倫理規定を設けるべきではないか?」と指摘されていました。倫理的配慮についての指摘はナッジの提唱者であるセイラー教授自身も行なっています。セイラー教授は、正しい行動を上手くとれない人を支援する目的にナッジを用いるべきだとしており、私欲のためにナッジを悪用することを「スラッジ(汚泥)」と呼んで区別しています。UXデザインにも同様の考え方があり、私欲のためのUXデザインは「ダークパターン」と呼ばれます。

ところで「正しい行動」という正義のためにダークパターンを用いることは許されるでしょうか?たとえば、社会全体の幸福のために臓器提供者を増やさなければならないとして、意思表明カードのUIに「オプトイン」パターンを使うことは許されるでしょうか?野菜嫌いの子供に野菜を食べさせるため、ビュフェ形式の学食で肉やパスタを取りづらい所に配置することは許されるでしょうか?人によって判断の分かれるところだと思います。これからも判断の難しい事例が多数出てくることでしょう。

行動経済学のような新たな知見はデザインの領域を拡大しましたが、それに伴いデザイン倫理について社会的合意のない領域も拡大しています。大勢の参加するオープンな議論によって社会的合意が形成されていくことを希望します。


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HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

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