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私は企業の研究所でサービスデザイン、特に参加型デザインの実践的研究に取り組んでいます。今回は、昨年度に実践的研究として実施したリビングラボのプロジェクトをご紹介するとともに、今後、COVID-19の影響下でのこういった実践研究のゆくえについて書いてみたいと思います。
私たちの研究グループは、数年前から横浜市の東急たまプラーザ駅周辺を実証フィールドに、参加型デザインのプロジェクト「ママたちのココちいいをカタチにしてみたらプロジェクト」を進めてきました。子育て中の母親が忙しい合間に自律的に過ごせる心地良い空間(サードプレイス)を実現することをコンセプトとしたプロジェクトです。このプロジェクトでは、サービス企画段階で15名の母親らとワークショップを実施し、さらに複数回に渡るコアメンバーとの集中討議を行い、最終的なサービスアイデアとして「シェア冷蔵庫」の構想を得ました。シェア冷蔵庫とは、コミュニティ内で冷蔵庫を共有し食品を交換するアイデアです。参加者が多めに作った食品や余った食材を冷蔵庫に入れて他の参加者に提供し、代わりに他の参加者から提供された食品を持ち帰ることで参加者間での食品交換を実現します。
昨年度2019年9月に、たまプラーザ駅近くのカフェの横スペースを借りてシェア冷蔵庫のプロトタイプ実験を行いました。実験参加者は地域の母親らを中心に26名集まりました。こういった実践的研究では、実験で初めて分かることが多いのが特徴かつ利点です。例えば今回の実験では、当初は冷蔵庫に食品が無くなることを懸念していましたが、実際には多くの参加者が食品を持ち帰ることを遠慮していまい、実験2日目には冷蔵庫が在庫でいっぱいになってしまいました。また、LINEのオープンチャット機能で参加者に冷蔵庫の在庫状況を定期的に発信したのですが、これが参加者同士の食品に関するコミュニケーションを促進しサービスの活性化につながるという予想以上の効果がありました。
シェア冷蔵庫のサービスアイデアに対して上記のような興味深い知見や運用の課題がある程度整理でき、さあ次の実験をというタイミングでCOVID-19の感染拡大が深刻化し実験は一時中断せざるを得なくなりました。実際の環境でターゲットユーザーと直接実験することを特徴とする参加型デザインですが、人との接触回避が必須の状況下ではこれまでと同じ感覚でプロジェクトを進めることは不可能です。参加者同士の物理的な接触を避ける、という新たな条件を優先的に考慮しサービスや実験方法をデザインし直す必要があります。オンラインでの参加者間のコミュニケーションを強化する、バーチャルな場を作る、センサーやログデータを積極的に活用する等、せっかくの機会なので様々な参加型デザインの方法を試して可能性を探りたいと思っています。
参考URL:https://actant.jp/mamacoco/