更新日:
自転車は都市部において、非常に便利な移動手段です。特にコロナ禍の現在においては、密を避けた移動方法として、電車通勤の代わりに選択する人が増えているのではないでしょうか。しかし、毎日自転車に乗っていて許せないことが1つだけあります。それは、駐輪場です。
私は、普段から街中にある使い勝手の悪いデザイン事例を収集して分析することを趣味としているのですが、駐輪場に関しては最適解だと感じるプロダクトに出会ったことがありません。特に酷いと感じるものは、前輪をレーンに差し込んでロックするタイプの駐輪場です。あなたの家の近くのスーパーマーケットにも設置されているのではないでしょうか。
この駐輪場の何が問題かは、実際に駐輪している人の駐め方を見れば一目瞭然です。なんと、前輪を差し込んでいないのです。少し観察しただけで、10台中7,8台はレーンの傍にわざわざずらして駐輪しています。ただ前輪をレーンに差し込むだけの簡単な作業なのに、なぜでしょうか。使い方が理解できていないとは思えません。このような設計時の意図と違う駐め方をされてしまう理由は、2つあると推測できます。
1つ目は、タイヤへの負荷回避です。前輪を固定するタイプの駐輪レーンは、その構造上、ロック時に片脚スタンドを立てることができなくなります。シティサイクル(いわゆるママチャリ)のような両脚スタンドであれば問題は無いのですが、クロスバイクやロードバイクといったスポーツサイクルに関しては、片脚スタンドが一般的なのでスタンドを立てて駐輪することができません。
前輪を固定したままスタンドを立てられないというのはどういうことかと言うと、前輪とロック機構の間の一点にテコの原理で自転車の全車重が掛かることを意味します。ママチャリよりも数段細いタイヤを装備したスポーツサイクルのユーザーは、これによる車体へのダメージを嫌ってロックを利用しないのです。
2つ目は、ロック解除操作盤までの距離です。このタイプの駐輪場は一定時間までは無料で、それ以上の時間の駐輪に対して課金が発生することが多いのですが、スーパーなどで課金が発生するような長時間駐輪するケースは稀です。しかし、無料時間内であっても、ロック解除には操作盤での解除操作が必要となります。
駐輪場によってはロック解除操作盤まで数十メートル離れていることもあり、これを面倒くさがった買い物客が、わざとずらして駐輪しているのです。別に駐輪場にロックされなくても、みんな自前のロックを持っていますからね。
これらの問題が発生する理由は、プロダクト設計時のHCD視点の欠落です。有料駐輪場としての機能要件はすべて満たしていますが、機能が主体であり、ただ要件を満たすための短絡的な設計でしかありません。少しでもユーザーの求めること、避けたいことへの配慮と視点があれば、このような結果にはなっていなかったでしょう。
今日もまた警備員が、レーンの傍に駐められた自転車に「前輪を確実に差し込んでロックしてください」と書かれたタグを貼り付けながら、レーンへ押し込む作業をしています。無配慮な設計のプロダクトと、そのプロダクトを基準とした誰も得しない無意味なルールによって、無駄な仕事が発生し、買い物客のUXを著しく下げ続けています。
私たちは諦めて我慢するしかないのでしょうか。そうではないはずです。
世の中にはまだまだ、HCDの知見を必要とする業界が残されているなと改めて実感したのでした。