更新日:
皆さんはユーザーテストで自信をもって提案したアイデアの評価が、あまり良い反応を得られず採用を断念した経験はありませんか。特に専門性の高いシステムやBtoB製品では知識、経験、スキル共にユーザーの方が開発者よりもレベルの高い場合も多く、新しいアイデアを受け入れてもらうことは容易ではありません。ユーザーの意見を聞き、その真意や背後にある要因を掘り下げてユーザーの潜在的な課題やニーズに対する解として導き出したものであっても、そのような結果になることは往々にしてあります。
私の経験でも、航空機のヒューマンエラーに起因する事故を抑止するために状況認識を支援するU Iを提案した際、ベテランパイロットの方々に意見をもらいながらHCDプロセスを進めていましたが、コンセプトを概念図で説明したフェーズでは「必要ない」、機能をアニメーションで説明したフェーズでも「パイロットは頭の中にイメージできているから」との評価でした。しかし、通常の運航ルートをパイロット自身で離陸から着陸まで操縦できる簡易シミュレータを構築し、新しいUIを組み込んで評価してもらったところ「これはいい、今すぐにでも欲しい」とそれまでとは正反対の反応があったのです。
相手がプロフェッショナルや熟練者の場合、今までできていたことを変えるには、新しいことに習熟するまでの時間と労力や、一時的にパフォーマンスを落とすリスクと比較しても十分なメリットが得られなければ受け入れてもらうことはできません。そのためには、説明による理解ではなく、体験による納得ができるプロトタイプを用意しなければならないこともあります。このようなことはユーザーテストだけではなく、エンジニアやマネージャーの理解を得ながらプロジェクトを進める場面でも同様かもしれません。
最近私たちのラボでは、簡単に手に入るホビー用品やラジコンを改造したおもちゃが走り回っています。CGやVRを使った映像シミュレーションと本格的なシミュレータの間を埋める体験型プロトタイピングツールとして効果はあるようです。HCDのプロセスにおいて評価の結果を公正に受け入れ、次のフェーズに移行することは基本的には正しいことですが、コンセプトの段階で否定的な意見だったとしても、それが思い込みや迷信によるものだとの確信があれば、挫けずにトライしてみてください。イノベーションの芽を埋もれさせないために。