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私は、昨年開催された「人工知能学会全国大会(第34回)」の企画セッションに、オーガナイザとして参加しました。このコラムでは、セッションでの議論を通じて考えたことをご紹介したいと思います。
私はマニュアル制作会社に所属していますが、製品説明や新人教育のためのマニュアルには操作や事例などで示された形式知のみならず、熟練者が暗黙的に行っている行為を可視化することも重要だと常々考えていました。
今後のマニュアルは、製品のサービス化や企業のデジタル化などの新たなニーズに対応し、利用状況の中で生まれた新たに知識を取り込んでいくことが求められると思います。
このような問題意識から、専門家が知識を記述する際のガイドライン的役割を果たす、オントロジー工学についての講演を中心に、知識の共有と再利用のための課題と解決策について、議論することにしました。
招待講演として、産業技術総合研究所人工知能研究センター データ知識融合研究チームの西村悟史氏より、オントロジー工学の立場から、マニュアル的な行為記述の問題点や、現場での知識発現の取り組みなどを紹介いただきました。
講演では、オントロジーとは何かについて、オントロジー工学の立場から説明がなされ、マニュアル的な行為記述の方法、行為の根拠が暗黙的であることによる様々な問題が示されました。
講演の内容を受け、私からは「マニュアルとは何か」についてあらためて考えてみたことをお話しました。
「マニュアルをもとにした、行為の実行」という目的から見て、マニュアルはどのように位置づけられるかを考えました。
マニュアルに期待される機能は、内容(方法)を理解させることでユーザーの行為を変化させる、すなわち「説明機能」であるとしました。
さらに説明すべき内容とは何かについて考察し、最終的にマニュアルとは「要求を満たすための、正当な実施方法を表現したもの」ではないか、という考えをお話しました。
その後の議論では、西村先生から、今後の期待としてマニュアルを実行する人の意図や感情、信念のモデル化を目指した、心理学からのアプローチへの期待が語られました。
私はこのセッションを通じて、利用状況に埋め込まれた知識をユーザーとともに発見し、活用することの大切さを再認識することができました。