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「情報化時代」と呼ばれていた時代は、インターネットやスマートフォンの普及により爆発的な発展を遂げ、近年は「AI時代」という言葉を耳にする機会が多くなりました。
「AI」という言葉自体はかなり前から普及していましたが、チャットボットや、お掃除ロボット、さらには自動運転技術など、AIが本格的に実用化され始めたのは、ここ数年のことだと思います。
ではなぜ、ここに来てAIが普及してきたのか? その理由に、機械学習やディープラーニングといった要素技術の発達と、それを支えるGPUなどハードウエアの進歩があげられます。
私はインターネット企業のデータサイエンス部門に身を置いており、日々、様々なデータ分析や機械学習モデルの開発業務に従事しながら、日進月歩のAIの技術革新を肌で感じているところです。
そこで、最近、自分の中でちょっとした発見がありました。それは「HCDで得た知見がAI開発に大いに役立っている」ということです。
特にそれを実感したのが以下2つのシーンです。
【ケース1:教師データの作成】
AIがより人間らしく振る舞うため、もしくは、より高精度な結果を返すためには膨大な量の「教師データ」が必要となります。
教師データを簡単に説明すると、「●●を入力したら▲▲と出力する」、といった●●と▲▲の対応をまとめたデータセットのことです。
ここでいう「●●」は説明変数、「▲▲」は目的変数と呼ばれ、機械学習モデルは、説明変数をインプットに、目的変数をアウトプットできるよう訓練します。
この教師データの作成方法は様々ありますが、私はクラウドソーシングサービスを利用し、アンケートのような形式でワーカーに対し「あなたは●●と質問されたら何と答えますか?」といった設問を出題して「▲▲」を入力してもらい、データセットを収集します。
説明変数はテキストだけではなく、画像や動画などのメディアデータに置き換えることも可能で、例えば人間の画像Xをワーカーに見せ「これは何をしているところだと思いますか?」といった質問をし、テキストでYを入力してもらうことで画像とテキストのデータセットも作成することができます。
このデータセットを作成する「アンケート」の設計や、「どのようにノイズ(不適切な回答)を減らすか」といった部分にHCD的思考が役立っています。
【ケース2:AIが出力した結果の妥当性確認】
AIを開発したら、AIが妥当な振る舞いをするのか、どのぐらいの精度で回答するのか、といったAIのアウトプットを評価する必要があります。
その結果によっては、リリースを見送ったり、さらに教師データを増やして機械学習モデルを再構築するといった意思決定を行います。
この「AIが出力した結果の妥当性確認」という文脈においても、ケース1同様、「人間に問う」ためのアンケート設計能力が必要となり、その能力があるか否かで、検証自体の精度が大きく左右されます。
AIは一般的に(決定木などの機械学習アルゴリズムを除き)判定ロジックがブラックボックスであり、ユーザーに対し「なぜその結果なのか?」を説明することが極めて困難です。
従って、収集した妥当性確認の結果をどのように可視化するか、どのような指標でどのように評価したのかという「人間的な解釈」をエビデンスとして残すことが非常に重要なことなのです。
そのような「AIを人としてどう評価したのか」という点を考える上で、HCDの知見は大いに役に立ちました。
AI時代になぜHCDなのでしょうか?
答えは簡単です。IT時代もAI時代もユーザーは人間であることに変わり無いからです。
むしろ、AI(人工知能)だからこそ、ユーザーは人間的な振る舞いを期待しますし、UIよりもUXよりも、よりユーザーのパーソナリティーに寄り添わなければならないのです。
AI時代の到来に伴い、データサイエンティストはあらゆる企業から引き手数多であり、市場価値が高騰してきていると言われています。
それと比べ、現時点では「HCD人財」の市場ニーズは顕在化してないように思いますが、AI時代の今だからこそ、人間中心の設計に原点回帰しなければならないのだと私は考えます。
データサイエンスとHCDの両輪を回せるハイブリットなエンジニアこそが、これからの時代に一番求められる人財になるべきだと思うのです。