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2021年、国際人間工学連合(IEA: International Ergonomics
Association)より人間工学のコア・コンピテンシーの改訂版が発表されました。HCDや人間工学を実践されている方にとってとても有益な情報ですので、少しだけ紹介させていただきます。IEAは国際非営利団体で、世界中の国々から50を超える学会等が登録されており、WHOやILO、ISO等とも連携・協調し、国際社会に貢献しています。一般社団法人日本人間工学会(JES)は日本を代表するIEAの正会員で、3年前までIEA会長を務めた藤田祐志氏をはじめ、多くのJES学会員も活躍しています。
人間工学の最近の一般的なイメージは古典的な学問と思われることも多いのですが、この約20年ぶりに改訂されたコア・コンピテンシーの文書を読むと、現代そして未来に必要な専門性であり、多くがHCDと共通していることに気づかれると思います。序論に書かれている特徴的なポイントは次の4点です。1)システムズアプローチ、2)デザイン駆動型、3)人間中心プロセス、4)ウェルビーイングとシステム全体のパフォーマンスの適正化。すべて重要なのですが、ここでは4)についてだけ少し補足します。歴史的に人間工学を説明する際、身体的、認知的、組織的などの側面や分野にわけて行われることから、人間工学では個別の領域に分割できたり、個別に扱えるという印象が生じていると思います。もちろん個別の側面や分野に関する知識や理解が基本となり、大切なのですが、専門家が実践するにあたっては、システム全体を俯瞰、検討し、いろいろな側面も考慮した上で取り組んでおり、この包括的なアプローチをとることができることが重要なのです。人間工学の定義にも補足が加えられており、理論、原則、データ及び手法を「design」に適用するためには、ステークホルダーを含むシステム要素全体の相互作用を包括的にとらえ、それらを調和させることが人間工学の役割と書かれています。改訂コア・コンピテンシーとしては、7つの単位(Units)があり、それぞれ2~6の要素が示されています。これらの内容は最新の人間工学会誌のリサーチ・イシュー「人間工学者が今実践すべき3つのこと-IEAの改訂コア・コンピテンシーから学ぶ-」にて詳しく解説されていますので、是非ご一読ください。なお、リサーチ・イシューはJ-STAGEに発行後すぐに公開していますので、下記リンクから閲覧できます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jje/57/4/57_155/_article/-char/ja
もうひとつの話題は、人間工学関連の国際規格(ISO/IEC)、及び日本産業規格(JIS)についてです。ISO
9241-210をご存じの方は多いと思いますが、210だけでなくHCDに関連する多くの規格が存在します。これらの規格は、国内では日本人間工学会のISO/TC159国内対策委員会(JENC)にて審議・対応しています。HCD関連規格は主にTC159/SC4にて議論されており、HCD-Netでは、ビジネス支援事業部が主催する連続セミナー「人間中心設計の最新国際規格を学ぶシリーズ」等を開催してきました。8月6日の開催レポートが下記リンクから参照できます。これからも続編や連携を継続していく予定ですので、興味のある方は、是非ご参加いただければと思います。
https://www.hcdnet.org/hcd/event/entry-1690.html