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HCDに重要な能力の一つにメタ認知能力があります。古くは「ユーザビリティ資格認定制度に関する調査研究」 (2004)で基本能力の一つに挙げられています。「他人の思考について想像するのと同様に、上位の視点から自身の思考に対しても、 第三者的に思考する能力」です。『ユーザーインタビューのやさしい教科書』(2021)でも解説されています。メタ認知能力を鍛える方法の一つは、読書です。
私の好きな警察小説で、刑事の上司が「偶然を信じるな」と言っています。事件捜査についての発言ですが、私たちの仕事で調査や評価などを実施するときもあり得る状況です。それぞれ別の文脈で似たような発言があったり、似た行動に気付くことがあります。因果関係が隠れているかもしれません。ユーザーの言動の奥にある上流原因を追究していきます。
調査者が都合のいい事象だけを拾っている認知バイアスに陥っている場合もありますが。
私が2020年6月に読んだ2冊の本に、"偶然" にも同じ言葉が引用されていました。『悲劇的なデザイン』『リーダーシップの旅 見えないものを見る』に「大いなる力には大いなる責任が伴う」を見たことは"偶然"の一致とは思えません。『スパイダーマン』を好きな人が多いからでしょうか。それだけではなく、主人公の叔父さんが遺した言葉が、誰にも感銘を与えるのでしょう。若くして超人的な力を手に入れてしまったピーター・パーカーが迷ったときに、
行動指針となるべく演出されているからでしょう。リーダーシップもデザインも "Great Power" と言えるからでしょう。物語の主人公が倫理規範を考える場面は、古今東西さまざまな作品に見られます。
前述の警察小説では「偶然を信じるな」以上に心を震わす言葉があります。モスクワ民警出身の刑事が「痩せ犬の7か条」という信条を持っています。「目と耳と鼻を決して塞ぐな」「見方を変えて違う角度から見ろ」という条項も、HCDに有効な言葉として心に留めおきたいです。苦悩する同僚に刑事が伝えた言葉は7か条の一つ「まっすぐに生きろ」でした。
さて、HCD-Netでも専門家倫理規範(β版)が公開されました(2021年9月)。HCD専門家(スペシャリスト)だけでなく、関わる全ての人が意識したいことです。そうは言っても、組織内での役割や職務によって、力の大きさも及ぶ範囲も異なります。私は、自分の目の届く範囲、力の及ぶ範囲で責任を持って行動したいと考えます。
"With great power comes great responsibility."