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人間中心設計において、ユーザーテストは言うまでもなく重要な手法のひとつですが、コロナ渦において人との接触を最小化せざるを得ない現在、対面での実施を諦めざるを得なかった企業は多いことと想像します。私は現在アメリカ赴任をしておりますが、シリコンバレーのIT企業は未だに多くのオフィスが閉鎖されたままになっており、この状況ではオンサイトのユーザーテストは非常に困難です。しかし、そんな悩みを解決してくれるのもまた、シリコンバレーの企業なのです。
例えば、サンフランシスコに本社を置くUserTesting社は、リモートテストするためのプラットフォームを提供しています。リモートテストに必要なツールと、アメリカ国内外の調査パネルを提供しています。テストを主催する企業は、テスト内容と製品ターゲットに合うユーザーを抽出するためのスクリーニング条件を設定し、一方UserTesting側は、自社の調査パネルから被験者をマッチングし、テスト完了後に謝礼を支払います。被験者は専用のアプリ(PCおよびスマートフォンの両方に対応)をインストールすることで、自身が操作する画面の映像(テスト内容によっては顔の表情も含む)が送信される仕組みになっているので、ZoomやSkypeなど個別のアプリを事前にセットアップしておく必要はありません。
テスト方法は、テスト担当者が被験者とリモート対話しながら調査を進めるModerated方式と、あらかじめ設定したタスクを自分で読み上げながら画面を操作するUnmoderated(セルフサービス)方式に対応しています。後者であれば、被験者との日程合わせが不要であるため、開始からわずか数時間でテストを完了することも可能です。例えば一日の終業時にテストを開始しておけば、翌朝にはすべての回答が出揃っていることも珍しくありません。発言内容は自動的に文字起こしされ、さらにマシンラーニング技術により、肯定的・否定的な反応がどのタイミングであったのかもタイムライン上で可視化されるため、長時間にわたるテスト動画の分析も非常に素早く行えます。
このように、アメリカではユーザーテストをそのままリモートの世界で、素早く、かつ安価に実施できるサービスがパンデミックの前から存在していました。もともとアメリカは国土が広く、地域によって所得も人種分布も大きく異なるため、IT企業がオフィスに被験者を招待してテストするだけでは、この多様性に富んだマーケットの十分なインサイトを得ることが困難であることも容易に想像できます。
2021年11月、UserTesting社はニューヨーク証券取引所に上場を果たしました。また、同様のサービスを展開する企業も複数あることからも、市場規模の大きさがわかります。パンデミックによりリモート調査の需要もさらに増大していると考えられるため、今後の市場動向に注目です。