HCDコラム

昨年、ファミリーレストランを運営するすかいらーくホールディングスがフロアサービスロボットを導入すると発表して話題になりました。2022年4月までに約1,000店舗に導入とのことなので、すでにロボットを見かけた方も多いと思います。

導入の目的は「顧客満足度の向上」と「働きやすい職場環境」だとされていて、ファミリーレストランというサービス全体を最適化するために導入されていることがわかります。私も実際に体験しましたが特に不満もなく、非常に優れたソリューションだと感じました。いずれ他社も追随すると思います。

未体験の方のためにフロアサービスロボットの概要を説明します。ロボットとはいいますが要するに自律走行式の配膳用サービスワゴンです。全高129センチ直径59センチの縦長の円筒形で、胴体の大半が空洞で4段の棚になっています。手足はなく、客が自分で棚から料理を取ります。発話機能がありますが一方的にしゃべるだけで、客との双方向対話はできません。

このロボットの最大の特徴は「顔」があり「表情」があることです。ロボット筐体上端の液晶操作パネルに猫耳をイメージした突起があり、自律走行中はマンガ調のネコの顔を映すようになっています。全高129センチという低身長とあいまって威圧感は全くありません。私が店を訪れた際も「ネコちゃんきた!」と歓声を上げる子供がいて、ロボットが客に受け入れられていることが実感できました。

かつて回転寿司が登場した当初、店内に配置されたベルトコンベアに違和感を覚える消費者が大勢いました。工場の生産ラインや牛舎の自動給餌機を連想したからです。サービス業においては行きすぎた合理主義は消費者の反発を招きます。フロアサービスロボット導入も同様の反発を招く恐れがありました。すかいらーくの導入したロボットの「顔」は、違和感を解消するためのシンプルかつ効果的なソリューションであり、優れたUXデザインであるといえます。

高齢社会かつ人口減少社会の日本にとって、人間とロボットの共存は重要な要素です。ロボットが社会に受容されるためのUXデザインのさらなる発展を望みます。


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HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

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