HCDコラム

大学生、大学院生にとって就職は卒業/修了とともに、人生にとって重要なイベントであり、多くの社会人の方も経験してこられたことと思います。企業等にとっても、採用、特に日本での新卒採用は安定した会社の成長に向けて重視されています。就活状況は時代の移り変わりとともに変化していて、自分たちが経験した頃との違いや最近の学生の動きなどに興味がある方もいらっしゃると思いますので、今回は私が所属しているデザイン工学分野での最近の就活状況に関して触れてみたいと思います。

就職・採用活動に関しては、基本的に政府や経団連の要請(注1)に基づいて進められており、学生の学業への影響を考慮して、就職・採用活動の時期が議論、変更されてきました。ここ数年は広報活動の開始が卒業・修了年度に入る直前の3月1日、採用選考活動の開始が6月1日、正式内定が10月1日以降に落ち着いています。ただし、実質的な活動は早期化する傾向にあり、学生/大学側も理解して対応しています。私は就活で重要なことは2点に集約できると思っています。一つ目は学生と採用側のミスマッチのない就活を実現することで、このために説明会や面接、ワークショップ、インターンシップなどが行われており、学生には積極的に参加するようアドバイスしています。低学年ではB2Bやインフラ系など自身の生活に直接関係していない会社や業務を知らないため、大学では低学年時からキャリア教育や業界研究を推進し、見学会やガイダンス等も行っています。採用を目的とした広報活動は上記のように最終学年の直前の3月1日となっていますが、業界研究、企業研究はもっと早くから実施していることからそれらのための活動は、企業等と大学が積極的に協業していくべきと考えています。ミスマッチをなくすことは採用側も最も望んでいることと思いますので、HCD-Netのイベント等も活用して協力して取り組んでいきましょう。もう一つのポイントは、就活による学業へのネガティブな影響を最小限にすることです。企業から大学に移ってすぐに感じたことですが、就活が長期化すると学修時間を確保しづらくなります。以前は広報活動が3年生/M1の12月に開始されていたこともあり、説明会への参加(就活)のために授業を欠席してもよいと思っている学生もいました。現在でも4年生やM2のスタート時は卒業研究、修士研究よりも就活が中心の生活となり、なかなか研究が進んでいないという大学教員の声を聞かれた方も多いと思います。採用側も多くの学生のエントリーシートやポートフォリオをチェックしたり、面接やインターンシップ対応など大変だと思いますが、学生の本分である活動を理解して採用活動を行っていただけるとありがたいです。

以上から就活もHCDの考え方、相手の立場に立って考えることが重要ということがわかります。大学のキャリアサポート課/部門等は採用側のことも考えて日々学生の就活を支援していますが、学生や教職員全員の理解はなかなか難しいです。採用側も例えば入社直後の社員さん等から、就活の大変さや様子をリサーチし、より深く理解して採用活動を進めていただくとよいと思います。ここ数カ月、インターンシップの説明会や企業研究のために大学又はオンラインにて学生にプレゼンしていただく機会が多いのですが、参加学生が少なくて大変申し訳なく思うことがありました。学生に参加しない理由を聞いてみると、その一つに「同じような説明が多いように感じる」という意見が複数ありました。少し納得したのは、多くの説明会で「学生さんは社会や仕事のことをあまり知らないだろうから」、「ビジョンデザインや共創デザインも重要で取り組んでいる」といったフレーズがでてきます。初めて聞く学生もいると思いますが、低学年から企業研究/業界研究をしている学生やUI/UXデザインのカリキュラムを履修してきた学生、企業との共同研究に参加した学生、夏のインターンシップに参加した学生、などからすると以前にも聞いたフレーズと感じることがあるようです。私自身は各社の説明会やインターンシップ説明会に参加して、それぞれの違いや特徴が感じとれて興味深く参加させていただいていますが、学生目線だと、もっと自分に役立つ情報や企業選択に参考になる情報を欲しているように感じました。

就活において大学生がやっていることとしては、業界研究するとともに自己分析が重要です。本学ではそれらをうながし、ツールなどを使って支援しています。学生自身が自分を知って、やりたいことや目標をもつことが就活の出発点です。今年のUX Rocket(注2)では学生のトークセッションや「デザQ」という学生が主導する企業説明会という新しい取り組みもありました。またReDesigner for Studentさんは採用側、大学側とのかけ橋となるイベントを多数開催されています。ミスマッチのない就活はみんなにとっての目標です。お互いの立場を理解、情報交換し、ミスマッチのない就活を支援していければと思います。
(注1)https://www.keidanren.or.jp/announce/2022/0329.html
(注2)https://uxrocket.jp/


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HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

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