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HCD-Netでもここ数年倫理について議論が積み重ねられている。
筆者もダークパターンをはじめとして社会に対して働きかけを行ってきているが、その甲斐もあって多くのメディアでもデザイン倫理について、取り上げられ始めている。なかでも、ダークパターンはユーザビリティと並んでこれからのHCD/UXD領域では重要な論点となると考えている。しかし、今回はダークパターンの問題ではない、もうちょっと入り組んだ問題だ。
すべてではないが、多くのダークパターンの問題では「情報が多すぎる」ことが背景となっている。
そこではさまざまな「情報の多さ」があるが、たとえば携帯電話の契約プランを考えてみよう。UIが使いにくくて自分にあったプランがわからない、誤った契約に誘導された、といった問題がよく聞かれる。これは、情報を提示しているサイトの問題ではなく、そもそも携帯電話の契約プラン自体のわかりにくさに起因している。
もっと言えば、「電話をする」だけをすでに超えてしまって、データ通信機能、決済機能、家族割引などのプラン、といったサービス生態系全体の組み合わせパターンが複雑すぎて、そのなかから最適なプランを選ぶことが困難になっているのである。
ひょっとしたら、企業によっては意図的にこの「わかりにくさ」を作って、「合理的な」プランをユーザーが選ぶことを阻止しているかもしれない。それはダークパターンを超えた、ダークプロダクトといえるだろう。
そこまでいかないとして、多くの場合、我々は、その全体像を把握することが面倒なため、不必要なオプションに費用を払ってしまっている。この根底の問題が解決しない限り、表層のUIは、この複雑さをごまかすことしかできない。この問題は、まだ一般の社会では顕在化していないが、これから社会でより深刻になっていくだろう。
我々HCD専門家、UXデザイナーはこういった問題になにができるだろうか。
一つにはそういった情報をAIエージェントに任せてしまう、という解決策が考えられる。ユーザーがすべてを把握するのではなく、自身の要件だけを伝えて、競合を含めたサービス全体像をAIエージェントが理解し、価格だけでなく、サービス品質も含めて最も合理的なプランをAIエージェントに選定してもらうのである。これは、個人にとっては合理的な選択と言えるだろう。
僕自身も生活において選択のプライオリティが低いもの、低いとまでは言えなくとも選択をすることにそこまで関心が持てないものはこのやり方を選ぶだろう。というかすでに部分的にはAIに選択を任せている。
でも、選択自体を楽しむ分野もある。それは、決して合理的な選択が重要なのではなく、選択をするために対象を学ぶこと自体に関心が持てる分野だ。旅行しかり、楽器選びしかり、週末のスキー場選びしかり、そしてやってみたいプロジェクトしかり。
デザイナーは、そういった合理的=最適化ではない選択をしたい、と思わせるものをどうやったら作れるだろうか。