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企業の現場でのHCDの実践度を上げて行く道筋を示すため、メーカー14社へのアンケート調査を実施し「HCD各プロセスの実践度合い」「実践における阻害要因」を確認しました。約15年前/10年前にも同等のアンケート調査を実施しており、それらと比較すると、人間中心設計に関するトップの関心が高くなったり、人間中心設計に関する取り組み方針が明確になったり、ユーザビリティがセールスポイントになるという意識を持つようになったりと、阻害要因が解消し普及が進んだ面が多くあることがわかりました。
HCD-Netが発足して以来20年、ユーザビリティに関しては当初より何度も重要性を伝えてきました。そして、ユーザビリティはUXへと発展していきました。HCDプロセスの導入目的は、ユーザビリティを向上することだけではなく、UXを向上することが重要であるという文脈であったかと思います。その結果、UXをきっかけにHCDの必要性を感じ、この領域に興味を持った人もたくさんいることでしょう。これまでのHCD-Netの活動が、HCDの普及に貢献できたと言えるのではないでしょうか。
一方で、ユーザビリティ評価に関しては各プロセスでの実践度が軒並み下がっていました。また、デザインコンセプト/プロトタイプの評価が人間中心設計の観点から行われていない、基本設計の評価が人間中心設計の観点から行われていない、ユーザビリティ評価の手法/スキルにばらつきがある、などといった阻害要因が当てはまっていることがわかりました。企業の現場では、HCDの価値が認められるようになったものの、その土台であるユーザビリティ向上の取り組みの優先度が下がっているようです。確かに周りを見てみると、HCDが発展/普及したにも関わらず、ユーザビリティが悪い製品がまだまだ世の中に溢れています。ユーザビリティ評価が定着しないまま、企業の関心がUXへとシフトしてしまったのかもしれません。
また、アンケート調査の自由回答では、品質保証部門がHCDやユーザビリティについての理解が少なく、主観的な評価にとどまっているという声をいただきました。UXを向上することが重要であるという説明は、品質保証部門には届きにくかったのではないでしょうか? どうやらユーザビリティ評価の実践度を高めるためには、HCD-Netのアプローチを変えていく必要があるようです。
品質保証部門にダイレクトに必要性を理解していただけるよう、HCDプロセスとは関係なく、品質保証の一環/品質向上の取り組みとして重要性をアピールする活動も必要だと感じています。例えば、実践度を高めたい業界が重要視する学会で、HCD-Netがユーザビリティ評価による品質向上の効果を発表することで、その業界に所属する企業でのHCDプロセス(ユーザビリティ評価)の推進を後押しするといった活動です。HCD-Netは、HCD-Netを中心としたコミュニティでの活動に満足せず、もっと幅広い領域への発信をしなければならないと考えています。