HCDコラム

はじめに

ある地域でユーザーインタビューを兼ねたワークショップを実施しました。そこで得られた気づきをもとに、日本の地域における価値共創の可能性について考察します。「不便さ」や「何もない」という要素が、いかに新しい体験価値を生み出すのか、その結果をまとめました。

「不便さ」の中に潜む体験価値の再発見と都市型生活様式への問いかけ

このワークショップには、地域出身で帰省中の学生、地域への移住者、地域住民が参加しました。参加者同士で「地元」や「社会課題」に対する考えや想い、理想の将来像、地域での取り組みについてアイデアを出し合い、活発な議論を行いました。地域住民や移住者が参加したことで、リアリティのある共創的な対話が生まれました。

全体を通じて、「非効率」「不便」「何もない」「おせっかい」「偶然」「つながり」「孤独にしない」といったキーワードが多く挙げられました。

一般的に、「非効率」「不便」「何もない」「おせっかい」はネガティブな文脈で使われることが多いと思いますが、今回はこれらの要素が肯定的な文脈で語られたことが印象的でした。

「田舎の不便さ、非効率さ、何もない」といった、ネガティブに捉えられがちな状況だからこそ、「助け合い」や「おせっかい」が生まれます。そして、そこから生まれる人と人との「つながり」の中に心の豊かさが感じられ、そこに価値が見出される、という気づきが得られました。

これは、東京をはじめとする大都市圏における物質的な豊かさや効率的な生活様式が整っていてもなお、現代社会で失われつつある「何か」に対するニーズの現れではないかと推察します。

まとめ

今回のケースでは、物質的な豊かさよりも、「人」との関わりを通じて生まれる情緒的な価値が重視され、「モノ」ではなく「人」を媒介としたつながり自体に価値が見出されました。

今後、地域活性化を検討する上で、従来の単一価値基準を当てはめるのではなく、また、一見「制約」と感じられることの中にこそ潜在的な価値が潜んでおり、その部分に目を向けることで見出すことで地域共創の可能性、新たな体験価値を創出していけるのではないでしょうか。

一見マイナスに見える要素を、いかにプラスの価値へと転換できるかが今後の鍵となるでしょう。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。