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「求心力」を「遠心力」に変えて行くための「場」作りを
HCD-Netは、設立10周年を迎えるが、これまではいろいろな意識を持った多くの人達がそれぞれの思惑を抱えながら集まり、ともかく活動してみた。その結果、違和感の残る人達は去り、一方で専門家試験が毎年順調に推移して多くの「専門家」が同床異夢のまま誕生し始めている。HCD-Netでは、振り返りの総括としてこれまでの10年間で培った「求心力」をこれからの「遠心力」を生み出す活動に変換して行こう、とキャッチしたが、果たしてこの10年の歳月は「求心力」となっているのか?このまま遠心力が加わっても、軸がブレること無く活動の展開ができるのだろうか?
■HCD関連活動の普及度は?
HCD分野の教育コースは、近年工学部系のデザイン工学やデザイン科学に属するエンジニアリングデザインあるいはプロダクトデザイン領域などで展開されており、エクスペリエンスデザイン研究室が創設されている現実は大きな革新である。また、社会人再教育コースなどの一部領域にも食い込んで来ているが、これらのアカデミック分野に於ける目覚ましい普及は、主にHCD-Netの学校関係者の努力の賜物であると言っても過言ではない。
更に、HCDの「考え方」の重要性を検証し、いくつかの実業界で徐々にその考え方の必要性が認識され始めており、いくつかの分野で設計開発の基本要素として正式に導入され始めた。この10年間の活動は、言い換えれば「考え方」の普及に努めた期間として大いに評価できる。
しかし、実際のところ実業界で採用されている度合いは、設計成果物の何%くらいなのだろう?ウェブ開発業界での大手某社のケースでは、未だ現場の開発物件総数の一割程度にも満たないのが現状とも聞いた。一方、HCDを反映した設計が応用されるべき分野は極端に言えばほとんどの産業分野とも言えるのではないだろうか?従って、現段階に於ける会員や認定専門家の水平分布を考えると、まだほんの一部の分野でしか認知されていないのが現実ではないだろうか?会員として取り込むための魅力が求心力、ビジネス分野における水平展開力が遠心力だとすれば、まだまだ道程は遠い。
■設計思想 と 設計技法
HCDの何を普及させるべきかを考える時に、先ず思うのは、バズワードやあやふやなイメージでなく、実用的な「着実な実用技術」であるべきだと思う。また、「デザイン」という用語は、実に幅が広いため、あれもデザイン、これもデザインと縄張り争いをしているうちは、設計思想が固まっていない証拠ではないかとも思う。もちろん、デザインに関する「考え方」を議論することは良いのであるが、これを「実践」しないと意味が無いという事である。むしろ、「デザイン」という語彙にこだわる議論の必要も無く、そこで必要とされる実践技術を解明する事が一番重要なのではないだろうか?
欲しいのは、現場の実務で広く採用され、開発に必須の技法として認知され、この思想がごく一般的なアプローチである事のように浸透することである。そのためには、具体的にHCDに基づいた設計手法が有効であることが証明できなくてはならず、ユーザビリティ調査などによるUXの測定技術に基づく評価手法も確立されなくてはならない。
■技術だから規格がある
先に述べた通り、キャッチやイメージ言葉に流されないという事を具体的に捉えると、HCDにも、UXなどにも世界標準の規格が存在している事に気付く。更に、これらの規格も現段階では見直し見直しの段階で、努力中ではあるが、一方で「UXを測る」技法なども注目されて来た。これらの活動が成熟した成果としての技術の確立が必要である。
■ビジネス支援への方向性
世界標準の規格として存在するという事は、標準化のターゲットは、一部の分野に止まらず、広い視野で水平方向への適応分野の拡大の可能性があるからだろう。つまりそれぞれの分野に於いてHCD技法の有効性に関する実績を残し、その成果を周辺分野に紹介応用する事が遠心力となる。しかし、このような遠心力を得るためには、まだまだ求心力の拡張が必要であり、各分野に於けるビジネスへの貢献度が高く評価されなければならないと思う。
■専門家認定資格
専門家の認定は、単なる「お札」や「お守」効果を狙ったものではない。専門家の認定有資格者の個々の努力でHCD分野の活動を拡散しないと遠心力が生まれない。しかも、その活動は、社内や業界内だけの小スケールの認知でなく、他の業界、ビジネス分野への展開など、あらゆる分野でのスケール感での異文化交流が必要であると思う。専門家に認定された人たちは、その重要任務を背負える実力を持つ人達と読み替えても良いだろう。
■「普及」&「育成」の「場」の創出の必要性
学習教育機関以外に、HCD技術の普及促進のために、HCDに関する導入総合相談センターが必要だと思う。このセンターでは、技術解説、導入コンサル、人材育成、イベント企画立案&研究開発の実践などを実業として実行する事により、その活動が「遠心力」となる。しかし、例えば、「HCD導入総合相談センター」と言う名称で設立しても、その概念自体が普及していなければ看板を掲げる意味が無い訳で、そこでどのようなサービスが創出されるのかは名称を聞いただけではわからない。
すなわち、HCDの「普及」と「人材育成」の関係は、ニワトリとタマゴの関係にあるが、いずれにしても専門家試験合格者をナマの実践の場に送り出す仕組みの創生が必要ではないだろうか?業界内での多くの現場で戦う専門家の養成が「求心力」の補強となり「遠心力」を生むカギとなる。コアの技術を見極め、水平分布を開拓し、広い範囲での各分野での求心力が更なる遠心力を生み出す竜巻状態のスパイラルが起こせるか?これがHCDの未来を切り開く。