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ユーザビリティ評価を行う実験室(テストラボ)が随分さま変わりしているようだ。変わるというか、本来の姿が形成されつつあると言った方が良いかもしれない。
オブザベーションルームとハーフミラー付きの実験室という形式は、心理学の実験室に端を発している。HCDの萌芽期ではこのような設備を整備して、まともな評価ができるようにということで各社奮闘した。おかげで設備はできたが、ユーザビリティ評価が無い時は空いたスペースだけが目立ってしまい、社内の会議やワークショップで使用する、という状況に陥ってしまうケースが多かった。
昨今、ユーザエクスペリエンス・デザインが浸透するにつれ、「共創」という概念が出始めている。富士通デザインやDNPやリクルートのように、共創を目的とした場を作れれば理想である。しかし、全ての企業がこのような場を創ることは不可能であろう。そこで、もっと投資しやすい形として、“ユーザビリティ・テストラボを共創の場として活用する”という発想はどうであろうか。
近年このような取り組みが出始めている。ここで紹介する楽天もその一つである。楽天は2014年に「UXリサーチルーム」と呼ばれるスペースを創った。カタチとしてはユーザビリティ・テストラボに近いし実際にそのようなタスクも行っているが、スペースの名称に「UXリサーチ」と名付けており、幅広いユーザー理解を目指している。2015年の本社移転でリニューアルしたが、ここに楽天の意気込みが感じられる。ユーザビリティ・テストラボに近いと言ったが、ハーフミラーはすでに使用していない。考えてみれば大掛かりなハーフミラーなど無くても、解像度の高いネットワークカメラがあれば済んでしまう。寧ろ、部屋の中に不釣り合いな鏡があるという不自然さの方に違和感がある。訪問者は、品のいいリビングルームに来ているような錯覚を覚える。実際にお邪魔してみてそう感じた。リサーチする対象は様々のようで、顧客インタビューは勿論、問題解決型の社内ワークショップやリサーチメンバー間の課題共有まで多様な共創的な用途に使用するとのことである。良いところは、オブザベーションルームを広くし壁面にホワイトボードを設置していることで、このため社内の関係者多数を招きディスカッションができる。多数集まれば侃侃諤諤(カンカンガクガク)となる。つまりオブザベーションルームでの共創ということになり、相乗効果もあり非常にサステイナブルである。このように、ハーフミラー付きの実験室という2対の部屋で1つの目的というよりも、それぞれ独立していながら相互に連携し合う作り方をすれば、”共創向きのテストラボ”というスタイルが実現する。これから場を創ろうという方にとっては一考に価するものと思うがどうか。ちなみに楽天のリサーチルームの稼働率は80%を超えているそうである。