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今年度のAPCHIは、人間工学や生理学の関連学会との共催で行われ、正式大会名は、APCHI-ERGOFUTURE-PEI-IAIFI2014という長ったらしいものになっていた。APCHIについては、steering committeeは開催地の選定を行い、後は責任者に実施のためのガイドラインを送るだけで、実際の運用は現地責任者に任されるため、回ごとに実施形態には変動がある。いわゆるHCIの大会としてきちんとしていたのは、最近では、韓国(Incheon)、日本(Matsue)、インド(Hydelabard)である。他学会との共催も任意であり、Singaporeが人間工学の学会と、AustraliaがINTERACTと共催したようなケースもあるが、今回ほど多くの学会と共催したケースは稀である。
そのような理由からAPCHIの質は回ごとに変動してしまうのだが、残念ながら今回はおそらく過去の大会で最低のクオリティのものだったというしかない。挨拶には州知事も参加し、長い演説が連続し、ディナーなども豪華に演出されていたが、肝心の大会については、まず情報が十分に提供されていない(会場マップがないし、そもそもUdayana Universityが市内に複数キャンパスを持っていることすら周知されていなかった。建物マップもないため、どのセッションがどの部屋で行われているかは係員に聞くしかなかった)、プログラムやプロシーディングスが不十分である(そもそもProceedingsがなく、Best Paper Awardといわれても、どういうPaperであったのかが一般参加者には分からない。プログラムにはアブストラクトだけが掲載されているが、アブストラクトのない発表もあるし、その配置順も適当である。発表には番号が振ってあるが、その番号の意味が理解不能である、など)の問題があった。もちろんDVD-ROMやUSBメモリの配布もなかった。初日から三日目に至る間に徐々にセッション参加者が「消えて」しまったのも宜なるかな、という状況であった。
人間工学を中心に据えれば、HCIと生理学はその近傍領域として位置づけることができるが、本来ならHCIを中心に据えるべきである。さらに、HCIと生理学との間には相当な距離がある。また、プログラムに掲載されているアブストラクトのページ数でも、生理学が37ページ、人間工学が52ページに対し、HCI(APCHI)はわずかに10ページであった。ただ、幸いなことに、HCIの中ではユーザビリティの発表が多く、その質も悪くはなかった。参加型デザインやペルソナを使った研究などがあり、インドネシアのユーザビリティ研究は後追いレベルではあるが、みな熱心にやっているという印象があった。
インドネシアでは2010年にもAPCHI-ERGOFUTUREが開催されているが、今回共に、Udayana UniversityのAdnyana Manuaba名誉教授(人間工学)を顕彰するような大会になっていたため、こうした結果になったものと思われる。他方、インドネシアでは、若い人たちを中心にして2014年にSIGCHI Indonesia Chapterが組織され、FBなども活用しながら活躍しており、HCIに関連した動きはBali以外の地で活発に行われているようである。Steering Committeeとしてもいささか反省をし、次回以降のIndonesia大会では、別の場所でそうした組織を中心にした大会を開催することを検討せざるを得ないと考えている次第である。
黒須 正明
HCD-Net理事長、 放送大学