海外カンファレンス報告

IAサミット(正式名称Information Architecture Summit/情報アーキテクチャサミット)は、IAについての世界的なカンファレンスで、年に一度、北米で開催されている。

 

IA Summit 2014

http://www.iasummit.org/

 

開催15回目となる今年は、カリフォルニア州サンディエゴにて、3/26〜30の5日間にわたって開催された。カンファレンスは、前期の2日間が半日もしくは全日のワークショップ、後期の3日間で基調講演と3トラックのパラレルセッションが行われる。

 

参加人数は、景気の動向にだいぶ左右されるが、ここのところ昨年と今年はだいたい500人規模の会となっている。参加者は、北米からが6〜7割程度、残りがほぼヨーロッパからの参加となる。

 

参加者の属性は、いわゆるIA(Information Architect)が多数を占めているという点はIAサミットの大きな特徴といえる。また、UXデザイナー、UXアーキテクトという肩書きも多く見られる。所属企業のの割合としては、Webデザイン会社及びコンサルティング会社と、サービス提供事業者がほぼ半々といったところ。。プロダクト企業(いわゆる組み込み系)のデザイナーはほとんど見られない。

 

ちなみに、ヨーロッパ版IAサミットとともいえる、EuroIAというカンファレンスも毎年秋に開催されている。今年は9/25〜27に、ベルギーのブリュッセルにて開催される。

 

EuroIA 2014

http://www.euroia.org/

 

今年の基調講演は、Netscape、Yahoo!、Googleのデザイン/UXの責任者を歴任し、現在はヨガインストラクターという異色の経歴の持ち主であるIrene Au氏によるキャリア観についての講演。現状だけを見るのではなく俯瞰した観点を持つべきであるという視点や、環境を変えながら常に初心に戻る気持ちを忘れないことなどの、仕事と個人のあり方についての経験が語られた。

 

例年IAサミットの基調講演では、昨年はInternet of Things、一昨年はクロスチャネルと一歩先行く議題についての視点提供がなされ、参加者の課題意識を揃えるという役割を果たしていた(まさにKeynoteを奏でていた)。これが今年は、キャリアという、内面的なトピックが基調講演のテーマであったため、会場からは若干の戸惑いも見られていた。

 

一般トラックは、3本のパラレルセッション+アンカンファレンス的に即興で用意されるフレックストラックとで構成される。

 

パラレルセッションは、トラックA:実例などの実践的内容、トラックB:手法やフレームワークなど概念的内容、トラックC:組織やコミュニティについての内容、と分類がなされている。また、フレックストラックでは、Teaching IAと題された、IA教育についてのワークショップ(これはカンファレンス前日に開催されている)の内容を再検討する、というセッションが行われた。

 

私、長谷川は個人的関心からトラックBばかりをとったが、メンタルモデルの取り扱い方や、インタラクションの種別のパターン化、あらためて「言語」の役割を問い直す、など、興味深いセッションばかりであった。これらのセッションは、特にWebサイトに限らずとも、情報自体、もしくは情報の理解を取り扱うデザイナーであれば、さまざまな観点で発見を得られるであろう。

 

また、フレックストラックにも参加をしたが、IAのコンサルタントと大学での教育者とで、IAを教育する際の視点や課題などについての議論を行った。HCD-Netでの専門家座談会と近いような場であるが、こういった場を期待してIAサミットに参加する人も多いということもこのカンファレンスの特徴といえよう。

 

基調講演を含め、講演内容スライドやとられたノートなどは、ほぼすべてMedium上で公開されている。興味をもたれた方はぜひ参照いただきたい。

 

All the slides (and more) from IASummit 2014|Medium

https://medium.com/information-architecture/6a4e6e0c22c5

 

IAの業界・職務領域は、単なる「Webの情報設計」ではなく、特に米国では「デジタルプロダクト全般における上流工程」といったニュアンスを持つ。このため、数年前のIAサミットでは、カスタマージャーニーやユーザビリティテストなどUXに関してのセッションが多く見られていた。しかしながら、UXデザインが一般化していったいま、IAならではのトピックを扱うゆとりのようなものが生まれてきているといえよう。

 

このあたりの事情については、拙blogにて紹介している。興味ある方は参照いただきたい。

 

IAサミットの復活|underconcept

http://www.underconcept.com/blog/archives/950

 

IAsummit1.jpg

 

 

 

写真1:Irene Au氏による基調講演

IAsummit2.jpg

写真2:元IBMのKeith Instone氏と、スウェーデンのボロアス大学で教鞭をとるAndrea Resmini氏によるTeaching IAセッションの様子

 

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長谷川敦士, Ph.D.

HCD-Net 理事、コンセント 代表/インフォメーションアーキテクト


HCD-Net で人間中心設計を研究する

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、HCDやユーザビリティに関する学際的な知識を集め、それらを研究する方々への指導的役割を果たすべく活動しています。

HCD-NetにはHCDの研究者も数多く参画し、研究会の開催、機構誌の発行など、専門家による情報交換を活発に行っています。