セミナー・サロン

中村 聡史氏(明治大学)は、「セキュリティと失敗を招くユーザインタフェース」を理解するためには、日頃から、「人を徹底的に観察し、人を知ること、人を取り巻く環境を観察すること」が大事だと述べた。その上で、バッドユーザインタフェース(BADUI)に関心を持ち収集し続けていくことの大切さを述べ、収集にあたっては、BADUIだけでなく、カイゼンしているUI(例えばテプラなどを貼って分かりやすいと現場が考えたラベルを追加している)も収集し、それらの良し悪しを自身で考えるのも重要なことだと説明した。

杉浦 英史氏(freee)は、「スタートアップとUXとセキュリティと」として、2017年冬にFreeeに入社後、“社員のシステム利用の利便性を変えずに社内のセキュリティを強固にしていく”施策について、HCDプロセスのサイクルに当てはめながら実践した半年間の取り組みについて熱く語った。スムーズに導入するために、利用観察を行い、受け入れやすい方法を探りながら進めていった点が上手くいっている理由ではないかと述べた。

林 則彦氏(MXPジャパン)は、「電子鍵や暗号化技術動向及び課題と将来技術」として、2014年に車用の鍵としての出荷台数が他種を抜き、今も増え続けているPKE(パッシブキーレスエントリー)について、電動自転車やバイク、自宅玄関などでの利用拡大について言及した。その後、PKEの利用拡大にあたり、電波干渉などのノイズ環境・リレーステーションアタックへの対策の必要性や、1つの鍵で公共機関や宅配受取含む利用拡大する上での発生する課題などについて分かりやすく解説された。

鈴木 啓高氏(エスディーテック)は、「セキュアなUI構築のために開発現場で取り組むべきこと」として、これまでの3つの講演内容を振り返る形で事例紹介した後、重要生活機器連携セキュリティ協議会[ https://www.ccds.or.jp/ ]ユーザビリティWGで提唱している取り組んだUSB(ユーザー/セキュリティ/ビジネス)モデルについて紹介。ガイドラインを制作しても現場で利用されない現状ではチェックリストやデザインパターンなどで提供することも検討していくのが望ましいと述べた。今年度は、USBモデルについての精緻化も引き続き行いながら、商品開発時における位置付けや、事例などの収集を進めていくと語った。

講演全体を通して、セキュリティとユーザビリティを両立させるために重要なことは、利用者(お客さま、社員など)の観察を行い、どう対応・導入すればいいのかを見極めることだと感じた。セキュリティ対策していることを、利用者に意識させず、利用者が嫌がることなく実現させるための方法を、観察を通して探っていくことが、両立につながっていくと考える良いセミナーであった。
(NTTコミュニケーションズ 嵯峨田良江)


以上
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つながる世界(IoT時代)においては、安心安全で快適な製品・システム・サービスの提供が、ますます求められてきます。また、製品・システム・サービスを活用する人の多様性も急速に拡がっています。従来より、使いやすさ/わかりやすさとセキュリティはトレードオフの関係にあると言う指摘が多くなされています。本当にそうなのでしょうか?また、ビジネスにおいて、どこまでセキュリティを考慮するか、使いやすさ/わかりやすさにどこまで配慮するかは製品・システム・サービス開発の上流段階で決める必要があります。

今回は、製品・システム・サービスのセキュリティとUI/UX、そしてビジネスに関して現状と課題を専門家の方々に紹介いただき、それをもとに参加者の皆さまとともに考えてみたいと思います。

経営層から現場の技術者まで幅広い方々にIoT時代(つながる世界)における安心/安全で快適な製品・システム・サービスをいかに実現してゆくかを理解していただく貴重な機会です。是非、ご参加ください。

■主催:非営利特定活動法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)

■後援:一般社団法人 重要生活機器連携セキュリティ協議会(CCDS)

■日時:2018年7月12日(木) 17:00~20:00 (受付:16:30~)

■会場:freee株式会社 9F会議室
(東京都品川区西五反田2-8-1 五反田ファーストビル 9F)
https://corp.freee.co.jp/company/

■プログラム:
16:30~ 受付

17:00~17:40  
「セキュリティと失敗を招くユーザインタフェース」
中村 聡史氏 (明治大学 総合数理学部先端メディアサイエンス学科 教授)

世の中にはユーザーを失敗させてしまう困ったユーザインタフェース(BADUI)が存在しています。本講演では,特にセキュリティに関する状況における困ったユーザインタフェースについて具体的な事例を用いて紹介するとともに,なぜそうしたユーザインタフェースをユーザーは使いこなすことができないのか,どうしてこうなってしまったのかなどといった点について,様々な観点で整理しつつ紹介します。また,こうした困ったユーザインタフェースを収集することの重要性と,そこからどのようにして学んでいくのかといったことについて,大学における教育の実践などを踏まえた事例の紹介を行います。

【略歴】
大阪大学工学部卒業後、2004年同大学工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。情報通信研究機構先行研究員、京都大学特定准教授を経て、2013年より現職。専門はユーザインタフェースで、研究としては人のための検索、ライフログ、ネタバレ防止、平均文字などに従事。BADUI収集と人間観察が趣味で、その趣味を活かした講義や講演、連載などを行っている。著書「失敗から学ぶユーザインタフェース」。

17:40~18:20  
「スタートアップとUXとセキュリティと」
杉浦 英史氏 (Freee株式会社)

スタートアップは身軽なことが信条です。迅速な意思決定を成果に結びつけるため、本質的で創造的な業務に集中できる環境を回し続けなければな りません。そこには、セキュリティを気にする余裕はないかもしれません。 freeeは、創業から5年を経過し、500人近くの従業員を抱える規模となりました。クラウド上で会計、給与サービスを提供する第一人者として、サービスの機能、品質だけでなく、セキュリティレベルも常に最高水準を目指しています。 しかし、安易に後付けでガチガチの安全対策を施すと、従業員やユーザーの日々のUXを悪化させることは、火を見るより明らかです。それだけは、避けなければなりません。自然と守られセキュアになっていくと感じてもらうための動機付けや、実際のセキュリティ向上の取り組みについて紹介します。

【略歴】
CSIRT専属エンジニア。受託にて、TCP/IPの輻輳制御、MFA、IPsec、異常箇所推測などに関わったのち、Managed Security Service Providerの自社UTMのOS、監視基盤、ログ解析基盤の開発および運用に従事。2017年12月にfreeeに入社、CSIRT専属のエンジニアとして、情報収集、インシデント対応を行いつつ、情シス、SREにて活動中。

18:30~19:10  
「電子鍵や暗号化技術動向と将来技術事例・取り組み事例(仮)」
林 則彦氏 (NXP ジャパン株式会社)

NXPは、イモビライザ市場のリーダーとして常に業界を牽引し、次世代のリモート・キーレス・システムやパッシブ・エントリ・システムに向けたICの開発に努めています。自動車用イモビライザ・システムは、市場に初めて登場して以降、自動車盗難の件数を90%以上削減しました。カー・アクセス・システムのセキュリティと利便性を実現するトランスポンダおよびリーダーを提供しています。また、パッシブ・エントリ・システム向けの次世代デバイスは究極の利便性を備えており、ドライバが近づくとそれを認識してドアを開き、ロックの設定を自動的に行い、ライトを消灯し、ドライバが離れればアラームの作動を開始します。セキュリティと利便性をビジネスにおいてバランスよく成立させている状況に関し事例を交えて紹介頂く予定です。

【略歴】
車載半導体でワールドワイドシェアNo.1の半導体メーカ NXPの日本法人 NXPジャパンで15年以上の車載での経験を踏まえ、車載用アナログ製品の技術部門とマーケティング部門の統括部長として 国内自動車メーカー及び Tier1に対して次世代の車載用アナログデバイスの提案及びサポートをおこなっている。

19:10~19:50  
「セキュアなUI構築のために開発現場で取り組むべきこと」
鈴木 啓高氏 (エスディーテック株式会社 取締役副社長CTO)

IoT時代(つながる世界)における安心/安全で快適な製品・システム・サービスを的確に実現するためには、「Usability」「Security」「Business」の3つの観点をバランスよく考察、経営の意思決定を迅速に行う必要があります。 本セミナーを後援している、一社)重要生活機器連携セキュリティ協議会のユーザビリティWGで提唱している「USBモデル」を紹介しながら、本セミナーの3人の講演内容も鑑み、セキュアなUI構築のために開発現場で取り組むべきことを解説します。

【略歴】
長年、携帯電話や車載器などの組み込み機器向けのUI/UX技術を中心に取り組む。2005年頃よりAI技術を核とするActive UIを提唱し、様々な適用事例に取り組む。 エスディーテックでは、デザインエンジニアリングにより利用時品質の高い製品を創りだすことを使命とし、そのための研究開発に取り組んでいる。ヒトに対する理解と技術を活用し、ヒトとクルマの様々な状況に応じたHMIをよりダイナミックに生成する仕組みが現在の主なテーマ。

■対象者
・HCD専門家
・セキュリティ関連技術者
・セキュリティやユーザビリティ、ユーザインタフェース、UXDに関わるマネジメントを含む製品・システム・サービスの企画、開発、設計、保守運用関係者

■対象HCDコンピタンス
A5:ユーザー体験の構想・提案能力
A6:ユーザー要求仕様作成能力
A8:製品・システム・サービスの要求仕様作成能力

■参考:
人間中心設計(HCD)コンピタンスマップ(HCD-Net)
//www.hcdnet.org/media/001/201611/competence_map2016.pdf

◆参加費:
HCD-Net正会員:3000円
HCD-Net賛助会員:3000円
HCD-Net学生会員:1000円
CCDS各種会員:3000円
一般:5000円
一般学生:2000円

■定員:60名


セミナー・サロンレポート ※研究発表会は「研究会」ページをご覧ください

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動画チャンネル

一部の講演は動画チャンネルで見ることができます。

HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。