セミナー・サロン


イベントレポート

2019/9/7(土)  HCD-Net関西フォーラム 2019を開催しました。今年は「HCDのキャズムを越える」をテーマとし、各界の著名な講師の方からそれぞれの立場での「キャズム越え」について語っていただきました。

<午前>
■ワークショップ 上野 学氏(株式会社ソシオメディア)  
「オブジェクトベースUI設計」


はじめに上野氏は、UI設計についての20年に及ぶ実務経験から、オブジェクトベースUI設計の有効性を丁重にご説明されました。オブジェクトという言葉は、対象、客体など複数の意味を持つ英語の概念であり、このオブジェクトを志向するオブジェクトベースという概念は、GUIの成立やその歴史と切り離せないものという背景を述べられました。 さらに、オブジェクトベースUI設計ではまずオブジェクトを選択した上で、その対象が何を実行するのか指示する。つまり「名詞→動詞」という文法構造への意識が重要である。そのためには、プロジェクトに対して客観的なコンセプトの整理が必要なのだが、実はこの具体的な手法についての教科書がいまだ存在せず、混乱したUIが巷にあふれていると指摘されました。そしてソシオメディアで体系化されている手法の基礎としてオブジェクトの抽出、ビューとナビゲーションの検討、レイアウト・パターンの適用という3つのステップにより巧に概念が整理されGUIとして最適化されて行く様子を説明されました。 次に参加者がこの3つのステップを紙の上でスケッチとして実現する演習を行いました。複数のテーマが提示されたので、参加者は多角的な解釈を体験できました。 最後にソシオメディアで実際に行なわれた業務の実例を示して、理念にとどまらず現実での適用について参加者が考えるきっかけを作られました。 限られた時間の中で、基礎から実践そして現実での事例紹介と効果のあるワークショップを開催いただきました。

<午後>
■講演 ムラタチアキ氏(京都造形芸術大学 プロダクトデザイン学科客員教授、METAPHYS 代表、株式会社ハーズ実験デザイン研究所 代表取締役社長)  
「行為のデザイン」


ムラタ氏はご自身のかかわった展覧会など国際的な取り組みをスライドでご紹介されることから講演を始められました。いずれも、行為を観察する中で問題(ムラタ氏はこれをバグと呼称)を発見し、これを解決するという「行為のデザイン」がテーマとして感じられるものでした。 このプロセスの4つの段階として、①作法を作り出す:文化の見直し、②目的を考える、③行為を「人」「時間」「空間」を入れ替えて考えてみる、④相手になりきる、を挙げられ、この実践としてワークショップを開催する模様も紹介されました。このプロセスを通して発見される「行為を止める不具合」つまり「バグ」をいくつかの類型に分類し、それぞれの特徴を説明した上でご自信の関わった製品での対策例をご紹介いただきました。 昨今はモノからコトへと良く言われますが、コトのデザインを牽引してきたオーソリティーであるムラタ氏にしかできない、非常に実りのある講演でした。また最後の質問の回答で、あらためてモノのデザインの重要性にまで言及されたのがいっそう印象的でした。

■講演 佐藤 圭一氏(マツダ株式会社 車両開発本部 車両実研部 クラフトマンシップ開発グループ )  
「MAZDAの人間中心コクピット開発」


トップダウンでHCDプロセス導入が実施されたMAZDA。それでも、HCDプロセスをまわして行く中で、自分たちの作成した解決策がユーザーの要求事項を満たすものとして会社に承認されるかという所にキャズムが存在するため、ここをどうやって越えて行くかという点からのお話しでした。 今年新しく発売されたMAZDA 3には、HUD(ヘッドアップディスプレイ)が導入されているが、これはコストが高いため、通常このグレードの車にはほとんど搭載されていない。これを佐藤氏たちがボトムアップでマネージメント層に認めさせて行くには、元からある会社の方針に一致させて行く活動が重要だったそうです。 つまりMAZDAで重視される「価値を提供する事の意味」と「実現手段の前に人間の状態を考える」のそれぞれについて分析を行い、それに合わせる必要があります。具体的には、HUDを搭載する事で世界No.1の見やすい、わかりやすい、操作しやすいコクピットにするという価値を明確にする事、人間はドライブするときに、視野の中に表示があり焦点調整がしやすい状態が一番良い事の2点とのこと。そして、時間の少ない経営層へのプレゼンでは、これらを1枚のペーパーにまとめる事が重要であると述べられました。

■講演 水島 弘史氏(水島弘史調理・料理研究所)  
「料理教室における生徒様中心設計の取り組み」  


TVでもお馴染みの著名な料理研究家である水島氏のお話は親しみやすくわかりやすいものでした。 料理人が自分の手で調理し自分の料理を世に問う分には問題ない。それが受け入れられればお店は繁盛するだろう。しかし、店を複数持つなどした場合には、自分の料理を誰かに作らせる必要が出てくる。そのとき、腕自慢で生きて来た料理人にとって大きな壁が立ちはだかることになる。この壁を越えるために私が実践していることは、キャズムを越えるというテーマに通ずるものとしてみなさんに参考になるのではないか、という切り口のお話でした。 水島氏が主催される料理教室では、塩少々・トマトLサイズというような昔からあるがわかりにくい言い方をやめ、全てわかりやすくグラムで指示されるそうです。また、相談を受けて地元のレストランにメニューを提供する場合も、ただメニューを渡すのではなく、現場のシェフの力量や店で出されている料理をよく把握した上で、相手が取り入れやすい形を考えた上で提供する。こうしたアプローチは全て自分の頭の中ですでにシミュレートされた味を、いかに他人の手で再現するかというための行為だそうです。 相手の事をよく知り、相手に余地を残した上で、相手が理解できる事をする。 昨今の料理業界のトレンド変化も非常に加速されており、生き残って行くためにはこうした戦略が必要不可欠とのことでした。

■講演 葉村 真樹氏(東京都市大学総合研究所・大学院総合理工学研究科教授/パナソニック株式会社ビジネスイノベーション本部事業戦略担当)  
「Disrupt, or be disrupted: プラットフォーマーの行動原理」


最後の葉村氏の講演は迫力に富み参加者に大きな印象を与えたようでした。 葉村氏は人類と道具の歴史を振り返り、人類はその長い歴史の中で、新しい道具を導入する事で大きな社会の変革を生み出してきた。こうした新しい変化はあまりに大きく、結果として従来あったものを大きく破壊してしまう。この破壊、つまりDISRUPTは、昔は数百年間起こらないこともあったがひとたび起これば社会を大きく変えてきた。そして19世紀以降、DISRUPTは加速してきており、2019年の現在、世界はDISRUPTが連続して急速に起こる時代になっている。この大きなDISRUPTの時代に破壊される側にならずにどうやって生き残るのか。米国の巨大プラットフォーマーと対比して、日本の企業は過去のやり方に縛られていてDISRUPTに適応できていない実情を、Google、twitter、SOFT BANK、Lineなど多彩な勤務経験から説得力を持って語られました。自社の持つ優位性や技術ではなく人間中心の問題解決が必要である。そしてなにより企業はどうやって社会に貢献して行くかというミッションステートメントが重要であることを熱心に語られました。 自社の提供する価値を見極める事、そして時空を制する事、と広がりのあるテーマで話を終えられました。  

(文:小林拓也)

概要

今年も人間中心設計に関する終日のイベント「HCD-Net関西フォーラム 2019」を開催します。今年のテーマは「HCDのキャズムを越える」です。ユーザー調査を実施しKBF(Key Buying Factor)となるようなユーザー体験を導出したとしても、そこから製品やサービスを開発しビジネスにつなげるためにはキャズムを越えなければなりません。ビジネスモデルに落とし込めないという溝、設計(UI)に展開できないという溝、、、これらを越えて実践につなげるにはどうすれば良いか? 様々な分野の第一人者によるワークショップやご講演からヒントを得ていただければと思います。

午前は、ソシオメディア株式会社 取締役 上野学氏による「オブジェクトベースUI設計」ワークショップを行います。オブジェクトベースUIとは、ユーザーの関心の対象を手掛かりとした操作設計のことです。GUI本来のオブジェクト指向性を活かして、アプリケーションを劇的に使いやすくしましょう。このワークショップでは、オブジェクトベースUI設計の基本を紹介します。

午後は講演会を開催いたします。様々な分野の4名の講師から様々な切り口でお話しいただきます。
1演題目は、京都造形芸術大学 プロダクトデザイン学科客員教授、METAPHYS 代表、株式会社ハーズ実験デザイン研究所 代表取締役社長 ムラタチアキ氏にご講演いただきます。

2演題目は、マツダ株式会社 佐藤圭一氏に、クルマのユーザインタフェース開発において、人間中心の提供価値をものづくりに落とし込むために必要なことを「(仮)MAZDAの人間中心コクピット開発」と題してお話しいただきます。

3演題目は、水島弘史調理・料理研究所 水島シェフより「料理教室における生徒様中心設計の取り組み」と題してお話しいただきます。料理教室のレシピは、教える側からの一方通行ではなく、実際に作っていただく生徒さんからの情報をもとに、より作りやすいものにリメイクされてはじめて使っていただけるレシピになります。プロフェッショナルが実践しているユーザー中心の活動とは?

4演題目は、東京都市大学総合研究所・大学院総合理工学研究科教授/パナソニック株式会社ビジネスイノベーション本部事業戦略担当 葉村真樹氏より「Disrupt, or be disrupted: プラットフォーマーの行動原理(仮)」と題してお話をいただきます。  

各分野におけるプロフェッショナルの取り組みをお聴きすることができるとても貴重な機会です。是非ご来場ください。講演会終了後には交流会を開催いたします。こちらにも是非参加いただき交流を深めていただければと思います。なお、講演タイトルが変更になる場合があります。ご了承ください。


■日時:2019年9月7日 (土)
9:45~ ワークショップ受付
10:00~12:30 ワークショップ
12:30~13:00 講演会受付
13:00~18:00 講演会
~20:00  交流会

■会場:グランフロント大阪北館7F ナレッジサロン
大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル7F
http://kc-i.jp/facilities/business/knowledge-salon/

■定員:70名

■参加費:
<ワークショップ>
HCD-Net賛助会員・正会員:4000円
一般:5000円

<講演会>
HCD-Net賛助会員・正会員:4000円  
一般:5000円

<交流会(希望者のみ)>
一律:3500円

■対象HCDコンピタンス:
B1. プロジェクト企画能力
B2. チーム運営能力
B3. プロジェクト調整・推進能力
A5. ユーザー体験の構想・提案能力
A6. ユーザー要求仕様作成能力
A7. 製品・事業の企画提案力
A8. 製品・システム・サービスの要求仕様作成能力
A9. 情報構造の設計能力
A10.デザイン仕様作成能力
C1. HCD適用・導入設計能力
C2. 教育プログラム開発能力

プログラム

9:45~ ワークショップ受付

10:00~12:30 ワークショップ「オブジェクトベースUI設計」  
講師:上野 学氏(株式会社ソシオメディア)  

プロフィール:これまで約20年間にわたって、大規模エンタープライズシステム、基幹系業務アプリケーション、産業用アプリケーション、専門職種向けアプリケーション、各種ウェブアプリケーション、モバイルアプリケーション、デスクトップアプリケーション、その他の様々なインタラクティブメディアのUI設計およびユーザビリティコンサルティングを数多く経験。執筆、講演など多数。デザインコンサルタント。人間中心設計認定専門家。  

12:30~ 講演会受付

13:00~13:10 開会のごあいさつ
(特非)人間中心設計推進機構 副理事長 水本 徹氏  


13:10~14:40 講演①ムラタチアキ氏(京都造形芸術大学 プロダクトデザイン学科客員教授、METAPHYS 代表、株式会社ハーズ実験デザイン研究所 代表取締役社長)  
プロフィール:1959年鳥取県境港市生まれ。1982年大阪市立大学工学部応用物理学科卒業後、三洋電機株式会社デザインセンター入社。1986年ハーズ実験デザイン研究所を設立、プロダクトを中心に、グラフィック、C.I、インターフェースデザイン等広範囲なデザイン活動を行う。自ら立ち上げたブランド共有型コンソーシアムブランドMETAPHYS製品は、Gマーク特別賞をはじめ、DFAグランプリ、RED DOT BEST OF BEST、ジャーマンデザインアワードWINNER賞など、国内外で50点以上を受賞。自ら実践している心理行動分析法による商品開発メソッド「行為のデザイン」や「感性価値ヘキサゴングラフ」は、多くの企業や行政で導入されている。また東京都美術館新伝統工芸プロデュース事業(TC&D)や越前ブランドプロダクツコンソーシアム(iiza)、鳥取県コンソーシアムブランド(TOTT)など、地域振興施策としてデザインを活用したプロデュース業務にも数多く携わっている。神戸芸術工科大学客員教授、九州大学非常勤講師、2011年から京都造形芸術大学大学院にて、デザインで社会問題を解決するSDI(ソーシャルデザイン・インスティテュート)を開講した。著書に『ソーシャルデザインの教科書』(生産性出版)、『問題解決に効く行為のデザイン思考法』(CCCメディアハウス)がある。  

14:40~15:40 講演②「(仮)MAZDAの人間中心コクピット開発」
佐藤 圭一氏(マツダ株式会社 車両開発本部 車両実研部 クラフトマンシップ開発グループ )

15:40~15:50 休憩  

15:50~16:50 講演③「料理教室における生徒様中心設計の取り組み」
水島 弘史氏(水島弘史調理・料理研究所)
 

16:50~17:50 講演④「(仮)Disrupt, or be disrupted: プラットフォーマーの行動原理」
葉村 真樹氏(東京都市大学総合研究所・大学院総合理工学研究科教授/パナソニック株式会社ビジネスイノベーション本部事業戦略担当)  


17:50~18:00 閉会のごあいさつ  


~20:00 交流会

参加申込方法

下記よりお申込みの上、参加費のお支払いをお願いいたします。  
https://peatix.com/event/1242247

注意事項

■飲食物のお持ち込み等について
飲食物の持ち込みは禁止となります。昼食は会場外で食べるか、会場内の売店で購入したものを講演会の部屋で食べるかのどちらかにしていただくようお願いいたします。また、ワークショップ・ 講演会の部屋以外の共有スペースの利用も禁止となります。ご理解・ご協力のほどお願いいたします。

■領収書および請求書について  
※クレジットカードのご利用明細書、金融機関の払込受領書もしくは払込完了画面、Peatix発行の受領データをもって領収書に代えさせていただきます。  
※Peatix発行の領収データについてはこちらをご参照ください↓  
http://help.peatix.com/customer/portal/articles/221024
※請求書の発行はお受付いたしかねます。

■キャンセルについて  
・キャンセル前提のお申込みはご遠慮願います。  
・やむを得ずキャンセルが必要となった場合は、8月30日(金)12:00までにお申し出があった場合はキャンセル手続きを承ります。それ以降のキャンセルにつきましてはお受け出来かねますので、何卒ご理解いただきますようよろしくお願い申し上げます。  
・キャンセル時の返金につきましては、Peatix Help「チケットをキャンセルしたい」 をご参照ください。

■賛助会員の皆さまへ  
・2名まで「HCD-Net賛助会員」種別にて参加可能です。3名以降の方は「一般」種別となります。  
・予め2名様を社内にてご調整をお願いします。3名を超えた場合は、再度「一般」にてお申し込み手続きを行っていただきますのでご了承をお願いいたします。  

■PayPalをご利用される方へ  
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動画チャンネル

一部の講演は動画チャンネルで見ることができます。

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HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

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