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HCD-Netフォーラム2020の開催概要はこちら
HCD-Netフォーラム2020開催レポート【1日目:11月27日(金)】はこちら
HCD-Netフォーラム2020:
ニューノーマル ~ 誰も取り残さない未来へ ~
開催レポート2日目【11月28日(土)】
11月27、28日の2日間のHCD-Netフォーラムは、今年度は初のオンラインでの開催となりました。
今年はデジタル化を中心として働き方や生活の仕方に大きな変化があった年ですが、その新しい生活様式でも誰もが取り残されず暮らせるようになるにはどうしたらよいか、HCDを通して自分たちのあり方を考える貴重な機会となりました。
■11月28日 パラレルセッション ----------
S1.対話支援ツール「Morris」を使って、みんなで発見、みんなで創造
– ニューノーマルなHCDを考える –
講師より「Morris」の概要、基本的な利用の流れ、対話のルールを説明した後、Zoomブレイクアウトルームで2グループに分かれ、最初のセッション開始。オンライン版の「Morris」は、Miroのワークスペースを利用して行われました。
同じチームで働く仲間という設定で「ニューノーマルなHCDを実践するため、Design / Develop / Deliver の私が対話してみたいことは?」という題目に対し、対話の「主人公」がテーマカードを選んで想いを話すことからスタート。これに対して、他のメンバーが質問カードを使って問いかけを行い、主人公の考えを様々な角度から確認します。次にフィードバックカードを選んで自分の解釈を伝えながら対話を進め、最後には、まとめカードでチームとしての方向性を示して1セッション終了。
ここで、「フルリモートでのHCDを成功させるために全員で認識しておきたいこと」として、異なる専門家同士の対話が重要とのレクチャーを受けた後、主人公を変えて2度目のセッションを行いました。参加された皆さんは、カード使って初対面でも気を使わない対話が可能なことを体験されたと思います。
S2.「やわらかデザイン脳」になるマインドマップ~はじめの一歩~ ----------
このセッションは、思考を整理したり、発想力を高めるすぐれた手法の1つ「マインドマップ」について理解を深め、実際に手を動かすワークを通じて学びました。
最初はもともとの思考のクセで、何をどこにかくべきか迷って時間内に言葉を多くかききれない人もいましたが、「かく内容や場所を迷う時間がもったいない。思いうかんだ順に言葉をかいていくことが大事」という講師の言葉に励まされて2回目のワークへ。2回目のワークは「私の好きなこと」をテーマに、思いうかんだ通りにかいて発散し、収束や意味づけ優先付けまでを行いました。筆者もやってみたところ、言葉どうし結びつけて意味づけることで、「私はこれが好きだったんだ」と思いもよらない創造的な発見が得られました。
マインドマップを初めて体験した参加者はもちろん、すでに業務で活用していた参加者も、公認インストラクターから正式なレクチャーを受けたことで、創造的な思考を展開した気持ちよさと、日常のさまざまなシーンで活用するイメージを持ち帰っていただけたと思います。
S3.HCDと倫理 ----------
デザインの対象が社会や環境に広がりつつある今、HCDに関わる私たちにとってもデザインを考えるうえで、人間が構成する社会における「倫理」について深く考えることが求められています。
このセッションでは、ワーキンググループ有志からのデザインと倫理に関する話題提供を切り口として、参加者間で活発な議論が行われました。
人間の心理を巧みに利用した「ナッジ」と呼ばれる行動経済学を応用したデザインの是非についての議論や、複雑な利害関係における優先度をどう考えるべきか?HCDにおける「倫理」とはどのレベルの倫理観について視野に入れるべきか?など、実務的な領域から、哲学的な領域まで多岐にわたる話題が飛び交う有意義な議論の場となりました。ワーキンググループでは、今回の議論を踏まえて引き続き本テーマに取り組み、ゆくゆくはHCDと倫理に関する指針策定を目指すとのことです。
■特別講演
松島倫明氏『未来を語ることはなぜ大切なのか? SFプロトタイピングの可能性』 ----------
今回は特別講演としてWIRED日本版編集長の松島倫明氏をお招き、「未来を語ることはなぜ大切なのか? SFプロトタイピングの可能性」というタイトルで、2時間に及ぶ壮大、かつ、濃密な場を開催しました。オンライン開催ではありましたが、圧倒的な情報量と文脈による未来への示唆に参加者からは大変な好評をいただきました。
"SF"と"未来"の関係はどういう構造なのか?
講演の中で、メディア研究で著名なMarshall・MacLuhan(マーシャル・マクルーハン)の『われわれはバックミラーを通して現在を見ており、未来に向かって後ろ向きに進んでいる』という言葉を引用いただきました。つまり、人類はボートに乗って未来に進んでいるのだが、視線は後ろ向き(いままで起きたこと)を見ている状態ということです。SF・SciFiプロトタイピングをプロダクト制作で用いるということは、人類の視線を未来に向けてあげる行為に他ならないというメッセージを紹介いただき、講演が締め括られました。
私たちは、HCD/UXDに関わるものとして、現実起点(フォアキャスト)と未来起点(バックキャスト)をうまく組み合わて良いプロダクト/サーヴィスを生み出す責務があると思います。
COVID-19の影響で様々なライフスタイルシフトがおきました。1ヶ月先の計画や予測が役に立たずいかに柔軟に対応できるかが求められる時節において、SFのもつ未来をプロトタイプする力は"新しい世界"において素晴らしい行為であるということを再認識することができました。
■11月28日 2020年度冬季HCD研究発表会 ※開催概要はこちら ----------
口頭発表8件とビデオ発表12件、合計20件の発表が行われました。今年はオンライン開催となったため、ポスターセッションに代わり事前に登録したビデオを視聴、コメント欄で議論を行う形式のビデオセッションが試行されました。
■11月28日 スペシャルセッション『1分間の動画作成でSDGsを「自分事」に 』 ----------
昨年に続き晃華学園(東京都調布市)中学校・高等学校が取り組んでいる、SDGsをテーマとした校内映像コンテストのプロセスや成果を発表いただきました。2019年度は、マラウイ共和国にあるマタピラ小学校との特別企画とコラボレーションして実施。実際に生徒らがマタピラ小学校の児童らとオンラインで対話し、お互いの文化やSDGsへの考え方を理解するところからスタートして映像作品へとつなげていくという、人間中心的なアプローチを紹介いただきました。賞にはマタピラ小学校児童の投票によるマラウイ特別賞も設けられているなど、この特別企画自体もSDGsの一環となるよう設計されており、昨年にも増して気づきと前向きな姿勢を示していただきました。
■11月28日 表彰式・閉会 ----------
研究発表会から選出される優秀講演賞には、鈴木舜也氏(和歌山大学)らの「眼球運動に基づくVRコンテンツ評価支援ツールの提案」が、ビデオ発表から選出される優秀ビデオ賞には、中山哲法氏(株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント)の「新規事業におけるインクルーシブデザインの重要性ロボットトイtoio™の事例」が受賞しました。
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【レポート作成】 HCD-Netフォーラム2020実行委員 ※五十音順
在家 加奈子、飯塚 重善、井登 友一、入江 眞、加賀美 裕子、黒田 健悟、黒田 由加、河野 泉、佐藤 公一、篠原 稔和、島 威一郎、田村 浩二、藤井 勉、益成 宏樹、山口 恒久