セミナー・サロン

今回のサロンは元々の定員50名を超える64名の方に申し込みいただき、盛況のうちに終了いたしました。サロンを企画した当初は、メインスピーカーの市谷さんに書籍の紹介をしていただいた後に1on1でパネルトークを実施する予定でしたが、デザイナーでありデザイン組織のコンサルタントも手がけている長谷川恭久さんにも参加していただけることになり、3人でパネルトークを実施しました。パネルトークでは、市谷さん、長谷川さん、脇阪理事それぞれの視点から話題を投げかけ、組織アジャイルについて議論を行いました。またサロンの最後では、今回のサロンをレコーディングしていただいたグラフィックレコーダーの安積さんからプレゼンテーションとパネルトークの内容を紹介していただきました。

市谷さんのプレゼンテーションでは、書籍「組織を芯からアジャイルにする」の紹介から始まりました。現在の組織が抱える課題としての過度な最適化が起こる要因や、その処方箋としての「組織をアジャイルにする(略して組織アジャイル)」ための方法を中心に話が進んでいきました。元々アジャイルはソフトウェア開発手法の一つなのですが、市谷さんはこのアジャイルの考え方をソフトウェア開発以外の仕事にも適用できると考え、アジャイルの本質である「探索と適応」を個人やチーム、あるいは組織全体といった各レイヤーで実践する伴走活動を行っており、この活動を書籍にまとめて出版されたそうです。

市谷さん曰く、組織での業務が過度に最適化されていることで、いろいろな弊害が出ているといいます。本来、業務を最適化すること自体は悪いことではなく、むしろ事業を継続・成長させていく上で欠かせないものなのですが、この最適化が過度に進む(最適化の最適化)と、本来やるべきことと業務の間に乖離が起きてしまうそうです。そこでこの「最適化」と「他の可能性を探索すること」を振り子のように行き来することが大切だといいます。そしてこの「他の可能性を探索すること」を実行するために、「探索と適応」を繰り返すのだそうです。この「探索と適応」については市谷さんの書籍に書かれているので、興味のある方は市谷さんの書籍をご覧ください。



プレゼンテーションの後は長谷川さんを交えてパネルトークを行いました。このパネルトークでは、以下の4つのトピックについて市谷さんから答えてもらいました。パネルトークの内容はグラフィックレコーディングでもまとめていただいているので、併せてご覧ください。

1.最適化のモメンタムを止めることができるのか?
出島作戦を取るのがいい。最適化が進んでいる中で、そのモメンタムを止めるのは難しい。

2.アジャイルを小さく始める最初の一歩とは?
アジャイルを始める単位(個人、チーム、組織)で、「今いる場所(From)」と「目指す場所(To)」の意識を揃えることが大事、「From」を揃えるための手段として、「むきなおり」というやり方を取り入れている。

3.「適応と探索」における失敗や後退を受け入れるためにはどうすればいいのか?
既存の取り組みと新しい取り組みがあったとして、その二つはどちらも大事である。この2つの取り組みは二項対立として捉えられがちだが共通点もある。この共通項を二項動態と捉えることができれば、仮に新しい取り組みがうまく行かなかった時でも、その新しい取り組みを否定するようなことになりにくい。

4.アジャイルを日本の組織で根付かせるためのアプローチとは?
アジャイルは元々海外で生まれた開発手法である。海外=ローコンテキストな環境でのものづくりでは、言語化や共通認識を形成するための手法や意識が発達している。一方で、日本の環境はハイコンテクストと言われることが多い。ただ、ハイコンテクストな日本の環境で言語化や共通認識の形成が不要かというとそうでもない。そこで「むきなおり」というオリジナルの手法を考え、実践で活用している。


最後にサロンの参加者を交えた質疑応答の時間を設けました。質疑応答の後は本日のテーマの一つである「アジャイルとHCDの接点」について議論を行い、閉会しました。

質問1:アジャイルとデザインは相性が良さそうだと感じたが、どうコラボレーションするのがいいのか?
コミュニティをつくってハンガーフライトを行い、やっていることや課題を共有するのが良い。(市谷さん)

質問2:市谷さんにとってのアジャイルの定義とは?
アジャイルとは「探索と適応」をやることができる身体の状態、または「仕事をする上での価値観」くらい広く捉えてもいいのではないかと考えている。アジャイルはプロセス論の観点からみると手段かもしれないが、「それよさそう」と思ったことをやっていける状態を保つことも含む広い概念であるということ。(市谷さん)
アジャイルは開発側だけの考え方ではなく、開発とデザインの共通項・共通概念になりそう。(長谷川さん)

質問3:振り返りに使えるおすすめのフレームワークは?
KPTが定番かつおすすめだが、KとPの間にやったことを出すステップを挟んでいる。それによってやろうとしていたことの達成度や課題を確認することができる。Tも工夫していて、Netflixの行っているKPT手法を参考に、Tのパートでトライすることだけではなく止めることについても議論している。(市谷さん)

質問4:大人数で振り返りをすると周りに流されたり空気を読む参加者が出てくるが、こうした参加者から本音を引き出すにはどうしたらいいのか?
アジャイル開発で必要な役割の一つであるスクラムマスターは、ファシリテーターのポジションでもある。そういうポジションの人がファシリテーターとしていて、振り返りをするといいのではないか。(長谷川さん)

最後のトピック:HCDとアジャイルの共通点や違いは?
HCDとアジャイルはそれぞれ、回転するプロセスという点では共通している。HCDは顧客・ユーザーのためになるプロダクトやサービスをデザインするためのプロセスで、アジャイルは計画から実行、振り返りを繰り返すことで、探索と適応を実行するプロセスである。フォーカスする対象(人なのかプロダクトやサービス全体なのか)や回転させる時間軸(アジャイルでは1〜2週間単位のイテレーションで回転する)に違いがるのではないか。(脇阪理事)
アジャイルのイテレーションが始まると、そのイテレーションのプロセスの中「だけ」で最初に設定した課題設定を深く見直すことは難しい。このイテレーションとは違う時間軸で課題を深掘りしていくことに対して、HCDの手法は有効なのではと感じる。(市谷さん)



今回のサロンでは、市谷さん、長谷川さんをお迎えして、非常に有意義な話を伺い、議論することができました。ソフトウェア開発とは異なるアジャイルとは別に組織アジャイルについて話すことで、アジャイルの本質である「探索と適応」について理解を深めることができたのではと思います。今回登壇してくださったお二人に感謝いたします。また、今回のサロンの内容をうまくグラフィックにまとめていただいた安積さんにも感謝いたします。安積さんに作成していただいたグラフィックのおかげでイベントの内容を俯瞰して見ることができるようになったと思います。


概要

ソフトウェア開発におけるアジャイルのエッセンスを、「組織づくり・組織変革」に適用するための指南書「組織を芯からアジャイルにする」の出版記念に、著者の市谷さんをお迎えしてアジャイルとHCDの接点を探索するサロンを開催します。

「組織を芯からアジャイルにする」紹介ページ
http://www.bnn.co.jp/books/11697/

Product Zineニュース
書籍『組織を芯からアジャイルにする』が7月に発売、ソフトウェア開発における組織アジャイルの実践知が詰まった指南書
https://productzine.jp/article/detail/1140

まずは市谷さんに、本書の趣旨でもある「アジャイル」な価値観を開発だけではなく組織のあり方に取り入れるための「アジャイル」な組織論と、硬直的な組織を柔らかくするための「動き方」についてお話いただきます。その後のパネルトークで、不確実性への対処のための「探索」と「適応」と、HCDの接点について探っていきたいと思います。

HCDの実践者や開発者、デザイナー、サービスデザインに関わる方にご参加いただけると幸いです。                

担当事業部:HCD-Net広報社会化事業部

■日時:2022年7月29日(金)18:30~20:30(18:15開場)
■会場:オンライン(Zoom)  ※リアルタイム配信 +見逃し配信を実施することとなりました。
■定員:50名(先着順) ⇒増席します。

■参加費:
HCD-Net正会員/賛助会員:1,000円
HCD-Net学生会員:500円
一般:2,000円
一般学生:1,000円

■対象者
・HCD-Net会員全般
・HCD専門家
・HCD/UXDの実践者
・IT・システム・製造業に携わる方
・スタートアップ・新規事業に携わる方
・WEB/アプリケーションの企画・開発に携わる方
・経営層・マネージャー

プログラム概要

18:15~18:30 開場
18:30~18:40 イントロダクション(HCD-Net理事:脇阪さん)
18:40~19:20 市谷さんプレゼンテーション「組織を芯からアジャイルにする」書籍紹介
19:20~20:00 パネルトーク(市谷さん&長谷川さん&HCD-Net理事:脇阪さん)
20:00~20:30 質疑応答

■登壇者紹介

市谷 聡啓(いちたに・としひろ)
株式会社リコー CDIO付きDXエグゼクティブ
株式会社レッドジャーニー 代表

サービスや事業についてのアイデア段階の構想からコンセプトを練り上げていく仮説検証とアジャイルについて経験が厚い。プログラマーからキャリアをスタートし、プロジェクトマネジメント、サービスプロデューサーなど経て、自らの会社を設立し、ソフトウェアの共創に辿り着くべく越境し続けている。
「カイゼン・ジャーニー」、「チーム・ジャーニー」「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー 」など、多数の書籍を執筆している。


長谷川 恭久(はせがわ・やすひさ)
デザイナー

Web/アプリに特化したデザイナーとして活動中。組織の一員として内情を考慮したデザインチームの成長を支援。UXやコンテンツを戦略から設計していくのが得意とする。アメリカの大学にてビジュアルコミュニケーションを専攻後、マルチメディア関連の制作会社に在籍。帰国後、数々の制作会社や企業とコラボレーションを続け、現在はフリーで活動。
自身のブログとポッドキャストではWebとデザインをキーワードに情報発信をしているだけでなく、各地でWebに関するさまざまなトピックで全国各地で講演や、執筆に携わる。
https://yasuhisa.com/
Twitter @yhassy


安積 津友香(あづみ・つゆか)
グラフィックレコーダー

大手IT企業でシステムエンジニアとしてキャリアをスタート。ERPパッケージの導入に関わる中で、経営者・プロジェクトマネジャー・エンジニアの「伝わらない」現場に問題意識をもった。コロナ自粛中にグラレコを習得、オンラインコミュニティの運営を経て、副業として開始。企業、経営者の価値ある情報をSNSで発信している。2児の母。


脇阪 善則(わきざか・よしのり)
人間中心設計推進機構 理事
パナソニック株式会社デザイン本部クリエイティブディレクター

デジタルプロダクトやインターネットサービスのUXデザイン&ディレクションについての経験が長く、現在では同社のアプリやウェブサイトのクリエイティブディレクションや、デジタルプロダクトデザイン強化施策に取り組んでいる。訳書に『サービスデザイン』(共訳、丸善出版)、『モバイルフロンティア』(共訳、丸善出版)、著書に『情報デザインのワークショップ』(共著、丸善出版)がある。



参加申し込み方法

以下サイトよりお申し込みをお願いします。※Peatixへの登録が必要です。
https://hcdnet20220729event.peatix.com

注意事項

■領収書および請求書について:  
※クレジットカードのご利用明細書、金融機関の払込受領書もしくは払込完了画面、Peatix発行の受領データをもって領収書に代えさせていただきます。  
※Peatix発行の領収データについてはこちらをご参照ください↓。  
http://help.peatix.com/customer/portal/articles/221024  
※請求書の発行はお受付いたしかねます。  


■キャンセルについて:  
・キャンセル前提のお申込みはご遠慮願います。  
・やむを得ずキャンセルが必要となった場合は、7月28日(木)17:00までにお申し出があった場合はキャンセル手続きを承ります。それ以降のキャンセルにつきましてはお受け出来かねますので、何卒ご理解いただきますようよろしくお願い申し上げます。  
・キャンセル時の返金につきましては、Peatix Help「チケットをキャンセルしたい」をご参照ください。  


■賛助会員の皆さまへ:  
・2名まで「HCD-Net賛助会員」種別にて参加可能です。3名以降の方は「一般」種別となります。  
・予め2名様を社内にてご調整をお願いします。3名を超えた場合は、再度「一般」にてお申し込み手続きを行っていただきますのでご了承をお願いいたします。  


■PayPalをご利用される方へ:  
PayPalから支払い承認のメールが届いても、その段階ではまだお申込みが完了しておりません。  
PayPal決済画面でカード情報を登録後、注文確定画面に移動し、カナ名など必要項目に情報をご入力された上、 確定ボタンを押して注文確定となります。ご注文が確定するとPeatixからご登録のメールアドレス宛に『お申込み詳細』 のメールが自動配信されます。


セミナー・サロンレポート ※研究発表会は「研究会」ページをご覧ください

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動画チャンネル

一部の講演は動画チャンネルで見ることができます。

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HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。